eぶらあぼ 2020.08月号
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13 首相自ら、規模の大きなイベントについて「中止、延期又は規模縮小等の対応」するよう要請したのは2月26日のこと。対策を講じた上で開催する準備をしていた公演も、この日を境に続々と自粛が決定されるようになっていったことをご記憶の方も多いであろう。そんななか話題となったのが無観客でのライヴ配信である。 大規模公演での先駆けとなったのが1億6千万円の制作費を投じていたびわ湖ホールのワーグナー《神々の黄昏》(3月7、8日)。観客を入れる形での公演中止が決まってからおよそ1週間で配信を実現し、延べ36万人のアクセスを記録した。東京交響楽団もほぼ時を同じくして3月8、14日に配信を行ったのだが、理事のメンバーにニコニコ動画を運営するドワンゴの代表取締役社長がいたことから、スムーズに実現。延べ20万人のアクセスがあり、14日は「投げ銭」システムを導入したことも話題を呼んだ。 他にも東京・春・音楽祭などが3月半ばに配信を実施しているが、「密を避ける」「三密」といった言葉が徐々に浸透していくと、舞台上の演奏者間でのクラスター発生が危惧されるようになっていく。その世論の変化の煽りを受けたのが、人気ピアニスト反田恭平が企画した4月1日の「Hand in hand」だった。当初は24人編成の室内管弦楽を予定していたが、最終的にはトリオまでの編成に絞ることで中止を避けた。ところが4月7日に7都府県に緊急事態宣言が出されると、ステイホームが徹底されることになり、配信といっても自宅から実現可能な範囲に限られてしまう状況となった。 この緊急事態宣言中に大きく動いたのは、チケット販売大手。例えばイープラスは前述した反田の配信の際にも使ったプラットフォームを有料視聴チケット制のライヴ・ストリーミング・サービス「Streaming+」として5月にオープンさせた。これによりYouTube等ではチケット制の有料配信が実現できないという問題を簡単にクリアすることができ、緊急事態宣言解除後にオンライン配信で興行を行いやすい環境が整うこととなった。イープラスは自社企画として、6月7日から週1ペースで計5回行われた「辻井伸行 オンライン・サロンコンサート」や、6月末から始まったテレビマンユニオンと組んだ新しいシリーズも好評だ。◆配信編東京交響楽団 (3/8 名曲全集第155回のニコニコ動画配信より)他にも6月10日に日本フィルが行った有料配信でも「Streaming+」が使われた。 室内楽では6月半ばにサントリーホールで毎年恒例の「チェンバーミュージック・ガーデン」が7公演に絞られた形で有料配信を実施。こちらはチケットぴあの「PIA LIVE STREAM」が使われ、全公演で3,500円という手頃な価格設定が特徴だった。他にも、7月23日から8月10日にかけて開催される「フェスタサマーミューザKAWASAKI」ではNTTスマートコネクトが提供する「SmartSTREAM」というサービスが採用されており、今後どのプラットフォームにおいてより良い環境でライヴ配信を楽しめるのかにも注目が集まっていくだろう。音楽鑑賞における「新しい生活様式」は、もうすでに始まっているのである。文:小室敬幸反田恭平(左)と上野耕平(右) (4/1 Hand in hand)チェンバーミュージック・ガーデン (6/21 フィナーレ 2020) 提供:サントリーホール

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