89アクセスしたように演出されている。つまりネット越しであることで、逆にのぞき見しているようなリアリティが増すのである。まことリアリティは演出ひとつで変わる。こんな試みを8年も前にやっているのだ。 さて、コロナ禍の中での日本のアーティストの挑戦に目を戻すと、コンドルズは、もともと彼らの舞台の要素だった映像や人形劇などを中心にネット用にうまくまとめた『I Want To Hold Your Hand』を配信(6/8に配信終了)。きゅうかくうしお(辻本知彦と森山未來)の『Air YouTube LIVE PERFORMANCE』は、以前スタッフとの打ち合わせとその出会いから語りおこしてダンスに至る舞台作品『素晴らしい偶然をちらして』(2019)と同じコンセプトで、スタッフと出演者の自宅と日常を反映させながら、語りやダンスを含めて展開していった。 劇場でしか味わえない魅力は確かにある。じっさいコロナ禍を受け、日本ではほとんどのフェスが中止になっている。しかし海外では、オンライン・フェスに切り替えるところもどんどん出てきているのだ。今後は「ネット配信は舞台の代替品」というだけではなく、「舞台を拡張するもの」として扱う視点も必要になってくるのではないだろうか。第69回 「国立なのに劇場をもたない『オンライン国立劇場』」 先月は舞台芸術とネット配信の関係(あとメロン)について書き、暗い話になってしまった。だがもちろん困難な状況にアーティストが立ち向かっていくなかで、新しい可能性を感じさせる作品もでてきている。 中村蓉はバレエの名作『ジゼル』のソロ作品化に挑んでいた公演が、コロナ禍のため延期に。しかし「今この身体のダンス」は「今」しかできない、と配信を決めた。それも「ほぼ生配信」、つまり「長回し一発録りで撮影したダンス映像を、編集せず、収録直後にそのまま配信する」というもの。中村本人も最終版を見ていない。そのギリギリ感の共有が、画面越しにも不思議な高揚感を生んだ。しかも始まると2階建ての日本家屋をまるまる一軒使い、移動しながら全ての部屋で踊りまくって意表を突いたのだった(現在、取り壊し中の家だそう)。 じつは中村は、2014年にナショナル・シアター・ウェールズ(NTW)に滞在・クリエイションをしていたのだが、この経験が今回大きく役立ったという。 NTWは世界でも珍しい「劇場を持たない、オンライン国立劇場」である。まさに今の状況を見越したようなコンセプトだが、創立は11年も前だ。屋外など劇場以外で公演したり、それをネットでライヴ配信、観客やスタッフがリアルタイムでSNSに感想や動画をアップするなど作品により形態は様々だ。 『The Radicalisation of Bradley Manning』(2012)はアメリカ軍の機密をウィキリークスに流した兵士ブラッドリー・マニングに材をとった作品。ネットのライヴ配信作品だが、その映像は、まるで檻の中のマニングを監視しているカメラへこっそりProleのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。うまい酒と良いダンスのため世界を巡る。http://www.nori54.com乗越たかお
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