32上岡敏之(指揮) 新日本フィルハーモニー交響楽団マエストロ上岡とのラスト・シーズンは「ブル8」で開幕!文:長谷川京介第623回 定期演奏会 ジェイド〈サントリーホール・シリーズ〉9/3(木)19:00 サントリーホール問 新日本フィル・チケットボックス03-5610-3815 https://www.njp.or.jp 上岡敏之が新日本フィルの音楽監督として迎える最後のシーズン(2020年9月~21年8月)は、ブルックナーの最高傑作と言われる交響曲第8番で始まる。ブルックナーの多くの交響曲と同じく、この曲も改訂への道をたどった。1887年に作曲を終えたブルックナーは、自信満々で総譜を送った指揮者ヘルマン・レーヴィから理解不能と告げられてしまう。尊敬するレーヴィの批判に深く落胆したブルックナーは、徹底的な改訂を加え、1890年3月に第2稿を完成させた。初演は1892年12月18日、ハンス・リヒター指揮ウィーン・フィルによって行われたが、ブルックナーは各楽章が終わるごとに拍手で呼び出されるという大成功を収めた。 作品は重厚で悲劇的に高まっていく第1楽章、優美さと野性味が調和する第2楽章、天国を思わせるように美しい第3楽章、壮麗な大伽藍が築かれる第4楽章という構成で、ブルックナーの交響曲の集大成にふさわしい壮大なスケール感と崇高さがある。 上岡と新日本フィルは、これまでブルックナーの交響曲のうち第3番、第6番、第7番、第9番を演奏してきたが、いずれも上岡独自の世界が展開された。室内楽のように精緻であると同時に強靭さに裏付けられ、息の長いフレーズの美しさやオーケストラの絶妙のバランスは、他の追随を許さないものがあった。その新鮮な解釈はゾクゾクするほど刺激的だった。対位法などブルックナーが自己の作曲技法を極めた第8番で、上岡と新日本フィルがどのような名演を聴かせてくれるのか、期待は高まるばかりだ。上岡敏之 ©堀田力丸~愛と平和への祈りをこめて Vol.10~ 森 麻季 ソプラノ・リサイタル新境地を開拓する名ソプラノが届ける歌の贈り物文:東端哲也9/13(日)14:00 東京オペラシティ コンサートホール問 ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212 https://www.japanarts.co.jp 日本を代表するオペラ・シンガーとして着実にキャリアを積み重ね、歌唱表現の幅を広げてきた人気ソプラノ。現地で米国同時多発テロ事件に遭遇した体験を胸に、10年後の2011年にスタートさせた9月恒例のリサイタルは「音楽の持つ力」を信じ、何かと不安なこの時代に、聴き手の心にすっと寄り添うような歌を届けることを目指す彼女の「愛と平和」を祈念する揺るぎない信念を象徴する企画。 記念すべき10回目となる今年は、長きにわたって好パートナーを続けている山岸茂人のピアノ伴奏はそのままに、プログラムを大胆にリニューアル。近年の定番だったフランスの歌曲やオペラ・アリアから、ドイツ・リートの世界に挑むようだ。しかも、まずはシューマンのドラマティックな連作歌曲「女の愛と生涯」が選ばれているのが目を惹く。過去の録音にはなかったレパートリーだけに、これからこの分野がどのように花開いていくのか、大いに楽しみだ。加えて、もうひとつのテーマはイタリア・オペラ。こちらも従来の軽やかなコロラトゥーラ系から、《ノルマ》の〈清らかな女神よ〉を筆頭に《アドリアーナ・ルクヴルール》の〈私は神の卑しい僕〉、《ラ・ワリー》の〈さようなら、ふるさとの家よ〉など、より重めの声で聴かせる路線にシフトしているのがわかる。そう、これら繊細さのなかに「強さ」を感じさせる今©Yuji Hori回のラインナップこそ、彼女から「コロナ禍」を生きる私たちへの贈り物に違いないのだ!
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