29変身願望の強いソプラノがルチア像をどう歌い演じるのか、必見の舞台取材・文:岸 純信(オペラ研究家)たので、これからの体験も舞台表現に活かせるよう願っています」 自然に恵まれた港町、直江津(新潟県上越市)の出身。 「湿気が多いので夏は蒸し暑いです。東京は空気が乾燥していてびっくりしました!(笑) 雪深い土地でもあり、我慢強い人が多い気がします。私も一つのことを始めたらなかなか止めないのですよ。実家がお寺で、母が音楽講師や合唱指揮者をしていまして、父も車の中で歌うのが好きという家庭で育ちました。私自身はピアノを習い続け、高校2年生から歌を始めましたが、実は学生時代は高音がうまく出なくて、メゾのレパートリーを歌っていた時期もあったのです。ですから、当時はリリコ・レッジェーロ(ルチア役の声種)のレの字も想像していませんでした(笑)。でも、ある日、知人から『夜の女王のアリア歌えない?』と言われたときに、なんとなくできる気がしたんです。高音域が上手くいかないのに超高音域はなぜか出すことができて…そこからコロラトゥーラの勉強を始め、大学院の修了演奏で《ルチア》を歌いました。6年間、根気強く教えて下さった横山和彦先生には本当に感謝しています」 最後に、中・高校生も多く観劇するNISSAY OPERAのステージに向けて。 「練習していると、学生時代の歌の癖などもふと出てきたりして、昔の自分と向き合っているようです。昔できなかったことができるようになり、感じることも違ってきた今、またルチアの役に向き合えることに幸せを感じています。秋の日生劇場で大勢の皆様に観ていただけるよう、頑張ります!」 ソプラノの高橋維は、《魔笛》の夜の女王や《天国と地獄》のユリディスといった役柄で評価される、冴えた響きの美声でコロラトゥーラの技を操る期待の新星である。この11月には、日生劇場のドニゼッティ《ランメルモールのルチア》で政略結婚の犠牲になるヒロインのルチアを演ずるという。抱負などをメールで尋ねてみた。 「私は昔から変身願望が強いようでして、舞台に立つと自分とは違う別の人間になり、そのキャラクターに合わせて自分の中の性格や表情を出していけることがとても楽しいのです。《ルチア》でも、歌の表現を磨くのは勿論のこと、演劇的にもっと勉強していきたいです。演出家の田尾下哲さんは、私が考えつかないようなアイディアをいつもたくさんくださる方なので、リハーサルを通じて、役を深めていく作業が今から楽しみです」 《ランメルモールのルチア》といえばベルカント・オペラの花形演目。それだけに、歌い手が装飾音型をどのようにつけるか、その点も注目の的になる。 「往年の名歌手の演奏を聴きながら、トラディショナルなスタイルも研究していますが、私自身は、皆様が『ここはきっとこう歌うのでは?』と予想されるのを裏切るような、少しハッとする類いの装飾をつけるのが好きなのです。あとは、役柄の感情もよく考えて、思いついたフレーズがその場にしっくり来るかどうかですね…ただ、今はまだ作り込まず、可能性をいろいろ探っている最中です。今回のマエストロ、柴田真郁さんは声楽科のご出身でもあり、稽古場でいろいろご相談しながら作っていけたらと思います」 続いて、役作りの面は? 「今の時期は楽譜を読み込むのみですが、学生時代に観たナタリー・デセイの映像や、動画で最近眺めたリゼット・オロペーサの〈狂乱の場〉が余りに素晴らしくて…。自分ならどのようにできるかなと模索中です。これまで喜劇的な役が多く、悲劇を演じる引き出しがまだ少ないのですが、昨年取り組んだグノーの《ロメオとジュリエット》では、話の筋も似ているからか、ルチア役に繋がるような経験も得ました。2017年から2年半ほどウィーンに留学していまして、西欧の人はちょっとした所作や表情も日本人とは違うなと実感したのですが、このたび、ローム ミュージック ファンデーションから2020年度奨学生の助成をいただいて再度渡欧することになりましInformationNISSAY OPERA 2020《ランメルモールのルチア》(新制作)11/14(土)、11/15(日)各日14:00 日生劇場指揮:柴田真郁 演出:田尾下 哲管弦楽:読売日本交響楽団出演 11/14 11/15ルチア:エドガルド:エンリーコ:ライモンド:アルトゥーロ:アリーサ:ノルマンノ:問 日生劇場03-3503-3111 https://www.nissaytheatre.or.jp※チケット発売日は上記ウェブサイトでご確認ください。高橋 維 森谷真理宮里直樹 城 宏憲大沼 徹 加耒 徹金子慧一 妻屋秀和髙畠伸吾 伊藤達人与田朝子 藤井麻美吉田 連 布施雅也
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