45ピエタリ・インキネン(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団世界が注目するインキネンが打ち出す新たなベートーヴェン像文:江藤光紀第721回 東京定期演奏会 6/5(金)19:00、6/6(土)14:00 サントリーホール問 日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 https://www.japanphil.or.jp 今夏にはバイロイト音楽祭登場が予定されているインキネン。いきなり新制作の《指環》全曲という衝撃のデビューだが、日本フィルとの《ラインの黄金》で私たちはもう3年も前にその実力を確認している。総本山もいよいよ放っておけなくなった、というところか(その後、事務局の発表があり、今年の同音楽祭はコロナの影響で中止。インキネン指揮による新制作の《指環》は2022年に持ち越された)。 さて、日本フィルとは昨秋よりベートーヴェンの生誕250年を記念した交響曲ツィクルスが始まっている。インキネンらしいスマートな解釈に、首席客演時代から数えれば10年を超える共演で培ってきた両者の当意即妙の応答が彩りを添えている。 6月頭の第5弾は、交響曲第2番と第5番のカップリング。2番は難聴に起因する、いわゆる「ハイリゲンシュタットの遺書」が書かれた時期の作品だが、古典派の枠組みを打ち破ろうとする野心、機智と躍動感にあふれた音楽だ。5番「運命」は隙のない構築性に加え、“苦悩を克服して歓喜へ”至る交響曲のドラマ性を示し、続くロマン派の作曲家に大きな影響を与えた。もちろんインキネンのことだから、ありきたりなイメージに引きずられない新鮮なアプローチをそれぞれに施しつつ、筋も通してくれることだろう。 このシリーズでは、ロマン派、そして国民楽派のシンフォニスト、ドヴォルザークの佳品がたびたびカップリングされているのもユニークだ。この日はプラハの宗教的自立を主導した国民的英雄を讃える序曲「フス教徒」が取り上げられる。インキネンはプラハ響の首席指揮者も務めており、本場のオケを相手に磨いたセンスを十全に発揮してくれるはずだ。ピエタリ・インキネン ©堀田力丸第155回 リクライニング・コンサート 本條秀慈郎 三味線リサイタル邦楽器初登場! 和洋の出会いが生み出す新世界文:オヤマダアツシ6/12(金)15:00 19:30 Hakuju Hall問 Hakuju Hallチケットセンター03-5478-8700 https://www.hakujuhall.jp 心身共にリラックスしながら音楽を、というコンセプトで好評のHakuju Hall「リクライニング・コンサート」で邦楽器の演奏が聴けるのは、かなり珍しいだろう(どうやら初めてのことらしい)。しかし登場するのが洋楽、つまりクラシック~現代の音楽を演奏することで楽器の可能性を広げている本條秀慈郎であるなら、納得する音楽ファンもいるはずだ。 聴き手が三味線という伝統楽器の音に反応し、西洋楽器とは異なる音の面白さや新しい志向に関心を寄せれば、きっと「発見」の多いコンサートになることだろう。さらには撥弦楽器である三味線ならではの音色、歌い回し、独特の間などが気持ちのよい音の空間を創造し、近未来的なホールの雰囲気と相まって不思議な時間を提供してくれることも、 「リクライニング・コンサート」だからこその醍醐味だといえる。 坂本龍一、藤倉大、挾間美帆、高橋悠治など、作品が演奏される作曲家のラインナップを見ただけでも、1時間という中に凝縮されたコンサートが、三味線という楽器にとって、本條秀慈郎にとって、さらには聴き手にとって深く刻まれるものとなることは容易に想像できるだろう。それがどういった音、音楽であるにせよ、未知の体験が約束されるワンダーランドとしての 「リクライニング・コンサート」であることは間違いなく、聴き手は本條秀慈郎という音楽家の存在を強烈に意識することになるはずだ。
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