eぶらあぼ 2020.5月号
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29上岡敏之(指揮) 新日本フィルハーモニー交響楽団2つの“ハ長調”が示唆する豊穣な世界文:柴田克彦定期演奏会 ルビー〈アフタヌーン コンサート・シリーズ〉第32回7/17(金)、7/18(土)各日14:00 すみだトリフォニーホール問 新日本フィル・チケットボックス03-5610-3815 https://www.njp.or.jp 新日本フィル音楽監督・上岡敏之の4シーズン目最後の定期演奏会は、“ウィーンのハ長調”プログラム。ベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番とシューベルトの交響曲第8番「グレイト」が披露される。両曲は共に作曲者20代後半の所産。同年代時の2人が、開放的でピュアな響きをもつハ長調でいかなる個性を発揮したか?という点がまず焦点となる。また前者は大巨匠への第一歩、後者は(結果的に)集大成となった作品だ。その在り方の違いと同時に、シューベルトの凄さも再認識させられるであろう。さらにベートーヴェンは同協奏曲でモーツァルトの流儀を受け継ぎながら自己を打ち出し、シューベルトはベートーヴェンへの憧れの中で別種の交響曲を生み出してブルックナーへの道筋を示した。ここではこうした連鎖も示唆されている。一見穏健なこの名曲プロ、実は様々な見地で意味深い内容なのだ。 ピアノ独奏はフランスのベテラン名手アンヌ・ケフェレック。2016年と18年に当コンビと共演し、優美で奥深いモーツァルトを聴かせた彼女は、今回も、清冽、繊細かつ味わい深い演奏で、曲のイメージを刷新してくれるに違いない。そしてシューベルトの交響曲は、今シーズンの新日本フィルの柱。上岡自身も5曲を指揮し、無用な力の抜けたしなやかでなめらかな音楽を奏でてきた。シーズン前にシューベルトの“歌心”を強調していた上岡が、その極め付けである「グレイト」をいかに表現するのか? 既成概念に囚われない彼がまた新たな作品像を提示するのか? 演奏面でも注目度満点のシーズン締めくくりとなる。transit Vol.13 ジュスタン・テイラー(チェンバロ) ~ゴルトベルク変奏曲~欧州の古楽シーンで注目を集める若手筆頭格が初来日文:笹田和人6/4(木)19:00 王子ホール問 王子ホールチケットセンター03-3567-9990 https://www.ojihall.jp 今をときめく俊英奏者と、鍵盤作品の最高峰。幸せな邂逅の瞬間に、ぜひ立ち会いたい。2015年、23歳の若さでブルージュ国際古楽コンクールで優勝を果たし、一躍脚光を浴びたフランスのチェンバリスト、ジュスタン・テイラーが初来日。若い才能や未知のアーティストを紹介する、王子ホールの人気シリーズ「transit」に登場する。 フランス西部アンジェ出身。チェンバロをオリヴィエ・ボーモンらに、ピアノをロジェ・ムラロに師事。ブルージュでは、聴衆賞と2つの特別賞も獲得した。アンサンブル「ル・コンソート」のメンバーでもあり、17年にはロワール国際古楽コンクールで優勝。録音にも積極的で、18年には、伊バロック期のドメニコ・スカルラッティと、現代ハンガリーのリゲティの作品を取り上げたアルバムを発表。時空を超えて2人の作曲家を共鳴させる意欲的な試みを行い、大きな反響を呼んだ。 まるで溢れ出るような音楽性と、それを余さず受け止める確かな技巧。そして他の誰よりも、音楽にのめり込み、愉しもうとする姿勢。彼の指先から紡ぎ出される調べは、第一音から、聴く者をたちまち魅了してしまう。そんなテイラーが、日本でのデビュー・コンサートの題材に選んだのが「ゴルトベルク変奏曲」。多くの鍵盤楽器奏者が“終わりのない旅”と深遠さを形容する傑作を、俊英はあえて“出発点”へ置いた。果たして、アリアと30の変奏に、どのように鮮烈な色彩を施してゆくのか。©Jean Baptiste Millotアンヌ・ケフェレック ©Caroline Doutre上岡敏之 ©武藤 章

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