eぶらあぼ 2020.5月号
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25音楽は人間の共通性を表現できる世界でたったひとつの言葉です取材・文:宮本 明ンチェスコのこのテクストを選びました。それをベートーヴェンの『歓喜の歌』(第九)と組み合わせたのです。 人が私の音楽をプログラムに加えてくれることをいつもたいへんうれしく思っています。これは特別のことと感じています。歌うことでみなさんがより多くの喜びを得られることを願っています」 すでに何度も訪れている日本、そして京都。 「もう16回も日本へ旅しています。最初は学生時代の1982年、『ライト・ブルース The Light Blues』というヴォーカル・グループの一員としてでした。京都では、御所を散歩して、近くの美しい茶店でお餅を食べるのが大好きです。そしていつも、お気に入りのレストランで新鮮なお豆腐やうどん、天ぷらを楽しんでいます」 その大好きな日本の合唱界や合唱作品にも深い敬意をいだいている。 「キングズ・シンガーズで武満徹さんの『手づくり諺』を初演できたことは幸運でした。リハーサルにやってきた武満さんはとてもチャーミングな人でした。三善晃さんの作品も大好きです。今回の音楽監督でもある友人の浅井敬壹さんが紹介してくれたのです。たくさんの三善作品を英国で演奏していますよ。好きな曲は『生きる』です」 キングズ・シンガーズ時代には艶のある美声のテナーとしてならした。しかし声楽家を引退した彼は、もっぱら合唱指揮、作曲をフィールドとしている。作曲家としての処女作は14歳の時に書いたヴィオラとチェロのための音楽だったというが、作品の大半は合唱曲だ。 「自分が合唱作曲家と見られていることをとてもうれしく思います。私には言葉による動機づけや、その言葉の背後に広がるイメージが必要なのです。それが私の作品に声の表現を生み出してくれます。 音楽は私たち人間の共通性を表現できる世界でたったひとつの言葉です。そして人の声は『生』と強く結びついています。歌うこと、とくに合唱は、連帯感、共感、包容力 、調和、そして私たちの人間性を表現する最もポジティブな手段のひとつなのです。5月のフェスティバルは、音楽がどのように人びとをひとつにできるかを示すための美しい表現となるでしょう」 開館25周年を迎えた京都コンサートホールが「Sing for Peace〜KYOTO 2020 コーラス・フェスティバル〜」を開催する。「平和と合唱」をテーマに掲げ、国内外のプロとアマチュアの合唱団が集う3日間の祭典。特別ゲストとして英国から招かれるのが、作曲家・指揮者のボブ・チルコットだ。1980年代から90年代にかけて、キングズ・シンガーズのテナー歌手として活躍した彼は現在、「ア・リトル・ジャズ・ミサ」や日本の抒情歌を編曲した「Furusato 故郷」などの代表作をはじめとする作品により、日本でも最も人気のある合唱作曲家のひとり。フェスティバルでは、委嘱新作をはじめとする彼の複数の作品がまとめて演奏されるほか、彼が日本の合唱団を指揮するコンサートや、一般公募で集まった希望者を指導するワークショップも行われる。 はじめに、彼を取り巻く英国の合唱シーンについて聞いてみた。 「英国には様々な様式の音楽を好む人がたくさんいます。とても幅が広い。それが歌い手と聴き手の両方に活力を与えているのです。良いことだと思いますよ。英国には優れた教会音楽、大衆的な音楽、ジャズやポップスがある。こうしたことが英国の合唱界をクリエイティヴにしているのです。古楽を愛するグループもたくさんあるのですよ」 さて、今回演奏されるチルコットの作品は、まずは初日、広上淳一指揮京都市交響楽団とともに歌われる「レクイエム」から、〈ピエ・イエズ〉と〈我らの心の秘密を知りたもう主よ〉。二日目には11作品を。「世界を変えた5つの日」は、活版印刷の発明やペニシリンの発見、人類初の宇宙飛行など、人類史の5つの革新を描いた楽曲。そして東日本大震災の犠牲者に捧げた環境カンタータ「アングリー・プラネット」からの〈リメンバー〉ほか多数演奏される。ワークショップの題材となるのは、17世紀の作曲家オルランド・ギボンズの同名のマドリガルを再創造した「銀色の白鳥」など。 最終日は、「故郷」全曲と新作「主よ、わたしを平和の器とならせてください」の世界初演。テクストはアッシジの聖フランチェスコの「平和の祈り」だ。 「フェスティバルのテーマを反映させるためにフラ

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