1247月+夏の音楽祭(その1)の見もの・聴きもの曽そし雌裕ひろかず一 編【ご注意】 公演データ部分の冒頭にも記述しましたが、新型コロナウイルスの全世界的な感染拡大のため、本欄で扱っている欧米の劇場・演奏団体についても、3月初旬頃より次々に公演中止または延期の措置がなされています。この中止期間が今後も延長され、夏の音楽祭にも影響が及ぶ可能性が十分考えられますので、これまで掲載した3月以降の公演も含めて、実際の公演内容がどのようになっているかの詳細については、各劇場等のウェブサイトでご確認いただきますようお願いいたします。----------------------------------------●【7月の注目オペラ公演】(通常公演分) 今年は7月にも注目すべき通常公演が少なくない。まずは、ベルリン州立歌劇場の「フィガロの結婚」。6月から続く公演だが、ミンコフスキの指揮と、ケルビーノを歌うクレバッサが特に聴きもの。なお、ミンコフスキは来シーズン(2020年11月)、SPAC(静岡県舞台芸術センター)芸術総監督の宮城聰(さとし)(演出)と共にこの劇場でモーツァルトの「ポントの王ミトリダーテ」の新制作上演を行うことが最近発表された。これは今から楽しみだ。コロナ禍が落ち着いていることを祈るのみ。7月に戻ると、他に、ケルン歌劇場でロトの指揮する2公演(「ベアトリスとベネディクト」と「兵士たち」)、ミラノ・スカラ座でメータの振る2公演(「仮面舞踏会」と「椿姫」)がいずれも要注目。チューリヒ歌劇場のルイージ指揮「シチリア島の夕べの祈り」(ビエイト演出)も面白い。それ以外では、ライプツィヒ歌劇場のR.シュトラウス作品やジュネーヴ大劇場のメシアン作品など。●【7月の注目オーケストラ公演】(通常公演分) 7月のオーケストラ通常公演でまず興味を惹くのは、ソヒエフ指揮のシュターツカペレ・ドレスデン。国際ショスタコーヴィチ・ターゲの特別演奏会として人気女流チェリストのソル・ガベッタとともにショスタコーヴィチの協奏曲や交響曲を演奏する。同じオーケストラで、ツィメルマンがベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」を演奏するプログラムも面白い(指揮はブロムシュテット)。●【夏の音楽祭】(7月分)〔Ⅰ〕オーストリア 「ザルツブルク音楽祭」。7月に恒例の「Ouverture spirituelle」シリーズの今年のテーマは「Pax」(平和)。しかし、戦争でも異常気象でもないウイルスという想定外の侵略者に襲われた2020年の「平和」とは何か。色々なことを考えさせられる何とも皮肉なテーマになってしまった。この音楽祭は5月末に今年の開催の可否を決定するということなっているのでご注意を。開催されれば、7月はサヴァール、ヘレヴェッヘ、クルレンツィス、ピション、ミンコフスキらの指揮する注目公演が勢揃い。本来ヤンソンスの振るはずだったウィーン・フィルの演奏会はウェルザー=メストが曲目を変更せずに引き受けた。彼の指揮する「エレクトラ」も注目公演。 湖上オペラで有名な「ブレゲンツ音楽祭」の湖上での演目は昨年に続いて「リゴレット」。演奏機会の稀な佳作オペラを取り上げることの多い祝祭劇場の方ではボーイトの「ネローネ」が上演される。アーノンクールの没後、やや主役のはっきりしなくなっていた「シュティリアルテ音楽祭」の最近の立役者は古楽のサヴァールとピアノのエマール。今年も興味深いプログラムが並ぶ。「ケルンテンの夏音楽祭」は、内容もさることながら、開催場所の風光明媚な環境が大きな売り。なお「メルビッシュ湖上音楽祭」はコロナ感染の影響を受けて、早々に開催中止が告知された。〔Ⅱ〕ドイツ 「ミュンヘン・オペラ・フェスティバル」では、いよいよ音楽監督としては最後のプレミエ演目となるペトレンコ指揮の「ファルスタッフ」。これに加えて彼の指揮する「死の都」と「ニュルンベルクのマイスタージンガー」が何と言っても今年の目玉公演。ただ、ペトレンコは音楽監督退任後も来年のこのフェスティバルで「トリスタンとイゾルデ」のプレミエを振るので、文字通りのお別れ公演というわけでもない。ペトレンコ以外では、ボルトン指揮のハイドン「騎士オルランド」やドミンゴ出演の「ナブッコ」、ゲルハーヘルのリサイタルも注目公演(ゲルハーヘルは「ザルツブルク音楽祭」、「エクサン・プロヴァンス音楽祭」でも同内容の演奏会あり)。 「バイロイト音楽祭」は本文にも付記したとおり今年度は中止が決定した。なお、今年予定されていた「リング」の新演出は、2022年に延期される見込みという。「シュレスヴィヒ・ホルシュタイン音楽祭」ではキールのシュロスで行われるソコロフのピアノ・リサイタルをピックアップ。ちなみにソコロフは本文で取り上げただけでも「ラインガウ音楽祭」「キッシンゲンの夏音楽祭」にも例年どおり出演する。キッシンゲンでは、ヴァイオリンのツィンマーマンによるベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ集も要注目。なお、キッシンゲンの閉幕演奏会は、ローレル指揮ル・セルクル・ドゥ・ラルモニーのベートーヴェン「第九」という興味深いプログラム。ドイツで行われる極めてマニアックなロッシーニ中心の音楽祭「ロッシーニ・イン・ヴィルトバート」も毎年紹介しているが、今年も「イングランドの女王エリザベッタ」などのあまり聴く機会のない作品を提供してくれる。「ルール・ピアノ・フェスティバル」は4月から7月にかけて行われる長丁場の音楽祭だが、7月はシフ、レオンスカヤ、シュタットフェルト、キーシンらが登場する。〔Ⅲ〕スイス 本文中に紹介した「グシュタート・メニューイン・フェスティバル」では、ヤーコプスのベートーヴェン「ミサ・ソレムニス」やラルペッジャータが伴奏するジャルスキーの声楽コンサートなど要注目公演が多い。他に、「ヴェルビエ音楽祭」(https://www.verbierfestival.com)は本年度は公演中止となった。〔Ⅳ〕イタリア イタリアではローマ歌劇場の夏の企画である「カラカラ浴場跡」でのオペラ公演が面白い。「マルティナ・フランカ音楽祭」は、めったに演奏されない演目を積極的に取り上げる玄人好みの音楽祭。今年もメルカダンテ、ヴォルフ=フェラーリ、ピッチーニ、パエールの珍品(?)オペラが並んでいる。「ヴェローナ野外音楽祭」は言わずもがなの有名音楽祭。〔Ⅵ〕フランス 「ボーヌ・バロック音楽祭」は古楽系随一の夏の音楽祭。今年もローレル、ルセ、クリスティ、ダントーネといった有名指揮者陣が並ぶ。なお、クリスティとレザール・フロリサンの演奏するパスティッチョは、ヴェルサイユのオペラ・ロワイヤルでも公演がある。フランス西岸寄りのサントで行われる「サント音楽祭」も魅力的な古楽系音楽祭。ヘレヴェッヘ、ルセ、ギヨン、ムニエといった指揮者が登場する。今年の「エクサン・プロヴァンス音楽祭」は、ラトルとヘンゲルブロックが中心的指揮者。前者の指揮する「ヴォツェック」、後者の「コジ・ファン・トゥッテ」に加え、アラルコン指揮のモンテヴェルディやマルッキ指揮の現代オペラ(アホ作品)、ピションのコンサートもあり、大変充実した内容。「モンペリエ音楽祭」では、ロト指揮レ・シエクル、ピション指揮ピグマリオンといった手兵の古楽系オケが重要。「オランジュ音楽祭」ではバルトリの演奏会に注目。〔Ⅷ〕イギリス〔Ⅸ〕北欧 イギリス「グラインドボーン・オペラ・フェスティバル」は、コロナ感染拡大の影響で開幕が遅くなる(7月14日予定)ことにご注意のほど。フィンランド「サヴォンリンナ・オペラ・フェスティバル」では、オペラに加えて、今年に限ってはハンヌ・リントゥの振るガラ公演がなかなか楽しめそうだ。(以下次号)(曽雌裕一・そしひろかず)(コメントできなかった注目公演も多いので本文の◎印をご参照下さい)2020年7月の
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