eぶらあぼ 2020.5月号
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119続・コロナの猛威と音楽業界〜コンサートの再開はいつになる? 新型コロナウイルスは、ヨーロッパ音楽界も直撃している。現在(4月2日)のところ、ドイツでは4月19日まで外出制限が出ており、イベントは一般、プライベートを問わず全面中止。当然ながら、復活祭周りのフェスティヴァルは、すべてキャンセルとなった。しかし問題は、この後がどうなるのか、ということである。率直に言えば、おそらくこの後もしばらくは規制が続き、興行は行われないと思われる。 バイロイト音楽祭が今夏の開催を断念した、という報道(3月31日)は、読者にも届いているだろう。7月終わりから8月いっぱいのフェスティヴァルなので、判断が早い気がするが、これは新制作の《リング》のリハーサル(4月初旬から)が開始できなかったためである。なにしろ4本のオペラを一挙にプレミエに掛けるので、準備ができなければ、開催は現実的でない。夏の時点での感染状況が問題ではないが、我々にとってはショックな話である。一方、夏のザルツブルク音楽祭は、遅くとも5月末までには判断を下すと発表している。 しかしもっと気になるのは、「通常の公演は近く再開されるのか」、あるいは「来シーズンは確実にスタートするのか」ということである。マインツとハンブルク大学の研究所が試算したところでは、国内における新型コロナウイルスの感染状況は、6月初めに頂点を迎えるという。それによると、同時感染者数は最大130万人(ふた通りシナリオがあり、もう一方の数え方では20万人)で、8月にゼロで終息するという。感染者の1割が重症・重篤者だとしても13万人(同上2万人)なので恐ろしい数字だが、これは4月20日以降に外出制限を取り払った場合のもの。そんな状況になったら、もちろん歌舞音曲などと言っていられない。両大学は、外出制Profile城所孝吉(きどころ たかよし)1970年生まれ。早稲田大学第一文学部独文専修卒。90年代よりドイツ・ベルリンを拠点に音楽評論家として活躍し、『音楽の友』、『レコード芸術』等の雑誌・新聞で執筆する。近年は、音楽関係のコーディネーター、パブリシストとしても活動。限を行わなかった場合の数値、20日以降も続ける場合の数値も算出しているが、結論は、「規制を取ったら、規制をまったく行わなかった場合の感染者数と結果的にあまり変わらなくなる」ということである(※)。 これは、大学の研究所の信頼に値する調査なので、ドイツ政府はおそらく、20日以降も外出制限を続けるだろう(今号が出る頃には、その決定が出ているはずである)。問題は、「人々の命を救うためには、いつまで規制を行えばいいのか」ということ。試算では、6月半ばまで外出制限をした場合、終息は1ヵ月遅れて9月初旬になるという。ということは、新シーズンはとりあえず始められる、とは言えるかもしれない。しかしこれは当然ながら、社会や経済がこの時点でも機能しているか、ということに依存する。会社の倒産が相次ぎ、証券取引が破綻し、人々が路頭に迷う、というような状況が本当に起こるとしたら、それは音楽界の構造そのものがひっくりかえってしまうに違いない。※マインツ大学では、「現在のパンデミックは類例がないため、こうした試算が確実であるとは言えず、長期的な感染者の割合をはじき出すことはできない」と、提示した数値に留保を付けている。城所孝吉 No.46連載

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