eぶらあぼ 2020.5月号
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110SACDCDCDCDベートーヴェン:交響曲第5番「運命」/クルレンツィス&ムジカエテルナモーツァルト:ピアノ・ソナタ第11番「トルコ行進曲付き」/藤井一興ブルックナー:交響曲第7番/上岡敏之&新日本フィルモザイク 近現代ピアノ曲集/八坂公洋ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」テオドール・クルレンツィス(指揮)ムジカエテルナモーツァルト:ピアノ・ソナタ第11番「トルコ行進曲付き」/シューベルト:即興曲 第2番・第3番/フォーレ:舟歌第1番・第5番、夜想曲第11番/ルーセル:ソナチネ/メシアン:「幼子イエスに注ぐ20のまなざし」より〈幼子イエスの口づけ〉藤井一興(ピアノ)ブルックナー:交響曲第7番(ハース版)上岡敏之(指揮)新日本フィルハーモニー交響楽団ルイ:ファストフォワード/ドビュッシー:版画/ルルー:ダンス…アングルティ/ゼミソン:山・桜・花/中田喜直:雨の夜に/小林聡:「鏡」ピアノのための/ハーマン:KHDK:August 11,2002/小櫻秀樹:ライネ・リーベ/久留智之:バロック・プリーツ~J.S.バッハと三宅一生へのオマージュ八坂公洋(ピアノ)ソニーミュージックSICC-30561 ¥2200+税マイスター・ミュージックMM-4076 ¥3000+税収録:2019年9月、サントリーホール(ライヴ) 他オクタヴィア・レコードOVCL-00721 ¥3200+税日本アコースティックレコーズNARC-2155 ¥2500+税クルレンツィスの「運命」となれば当然、新鮮な衝撃を期待する。しかしこの曲でそれが可能だろうか? 結論から言えば、本作はクルレンツィスが解説に記した“最初の衝撃”を鮮烈に与える演奏だ。まずは快速テンポでの推進力は比類なく、「運命動機」が全楽章で明確に示され、第4楽章に加わる新楽器の意味が強調される。そしてフレージングやアーティキュレーション、バランス(特にこれ)が根底から一新され、住み慣れた家が、内装だけのメンテによって全く別の住まいに変わったような感触がもたらされる。「運命」でこれが可能だとは……いやはや恐れ入る。(柴田克彦)アール・デコの美しいガラス工芸で知られるルネ・ラリック。その香水瓶「彼女らの魂」をジャケットに据えた藤井一興の新譜は、モーツァルトのソナタ第11番、シューベルトの即興曲、フォーレの舟唄と夜想曲、ルーセルのソナチネ、そしてメシアンの「幼子イエスの口づけ」という選曲からも興味をそそられる一枚。「ルネ・ラリックの花束と旅するオリエント急行」と題し、ラリックがデザインを施した長距離列車で旅するがごとく、遠隔調や近親調を考慮しながら配された一曲一曲が、藤井の柔らかくニュアンスに富んだタッチ、倍音が織りなすプリズムの輝きとなって届けられる。(飯田有抄)上岡敏之の「ブル7」といえば、2007年ヴッパータール響との来日公演ではなんと90分をかけたが、12年を経て、音楽監督を務める新日本フィルとの再演は、多くの人のイメージに近い70分強に。もちろんテンポと演奏の価値は何ら関係ないが、今回実現した細かい彫琢と無理のない穏やかな呼吸感を聴くにつけ、上岡の解釈の深化と自信が20分の差に出ているのもまた確か。長い旋律は緻密に歌いこまれ、安心して作品の世界に浸れる演奏で、前半2楽章は悠然とした美しさ。第1楽章コーダ直前、旋律を覆いつくすティンパニのクレッシェンドは、いま聴くと「痛み」の表現にも感じられて慄然とする。(林 昌英)カナダのフランス文化圏モントリオールに住む日本人ピアニストの2枚目のアルバムだ。日加両国の作品が漫然と収められているようで、目を凝らし耳をそばだてるうちに、地域や歴史をつなぐ関係線があちこちから浮かび上がってくる。ドビュッシーや短歌に触発された短章形式。バロックからロマン派まで。遊び心満載の作品から、中田喜直が戦後すぐの時期に書いた小品のように、企まない語り口が胸に沁みる曲も。無限に広がる想像力の連鎖を、八坂はシャープな音像で一つのモザイク画へとまとめていく。小さいながらもそこに、グローバルでハイブリッドな音楽の現在が生々しく立ち上がる。(江藤光紀)

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