eぶらあぼ 2020.4月号
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77齋藤真知亜(ヴァイオリン)真摯に突き詰めた“対話”がここにある取材・文:宮本 明Interview NHK交響楽団のヴァイオリン奏者・齋藤真知亜。昨年末には初の著書『魔境のオーケストラ入門』を上梓するなど、オーケストラ以外でも多様で活発な活動を展開する彼の、2019年にHakuju Hallで開いたリサイタルを収録したCD『鏡の中の鏡』がリリースされる。 リサイタルは1999年から続くシリーズの記念すべき20回目。アルバム・タイトルは収録曲のA.ペルトから採られているが、リサイタル自体には「Dialogue」=対話のタイトルが付けられていた。 「作曲家との対話、作品との対話、共演者との対話、お客様との対話。さまざまな対話です。リサイタル・シリーズには、『Viologue』(ヴァイオリンとの対話)、『Biologue』(生命との対話)という造語のタイトルを付けてきたのですが、2013年から、素直に『対話』に戻りました。リサイタルは1対1で音楽と向かい合う場。毎回、プログラムを考えチラシを作り、足を運んで聴いていただけるお客様に感謝する。謝礼を受け取って演奏するだけでは絶対にわからない、大きな財産になっています」 そのリサイタルシリーズそのものの趣向として、作曲家名のアルファベット順というユニークな選曲。結果としてこのCDは、頭文字がO、P、Qの、オッフェンバック、ピアソラ、ペルト、クヴァンツが並ぶバラエティに富むプログラムとなった。 「もちろん、それぞれの楽曲に合ったスタイルの演奏を意識しています。しかし共通するのは『ヴァイオリンの素晴らしさを伝える』ということです。機会があるごとに申し上げているのですが、僕はその作品を利用して自分を押し出すのは大嫌いで、そのようなスタンスの演奏家には、嫌悪感すら感じます。考えているのは、『こう弾くと評価される』ではなく、『こう弾くと作曲家が喜ぶ、楽器が喜ぶ』ということです」 共演のピアノを作曲家の鷹羽弘晃に委ねたのも、そんな楽曲の見方に自分と共通するものを感じるからだという。 「演奏効果よりもまず作品の見せ方を考えるタイプです。彼との舞台上でのやり取りはまさに『Dialogue』。とても楽しい対話で、作曲者も喜んでくれるのではないかと思います」 心の響きを伝えたいと訴える。 「ぜひイヤホンでなく、スピーカーから聴いてください。耳から入る音だけなく、身体全体に響く振動を感じてください。そうすれば僕の心の響きが、きっとあなたの心を震わせるはずです」アンドレアス・ヘフリガー ピアノリサイタル豊かな感性と壮大なテクニックが織りなす超絶技巧の世界文:長井進之介 伝説的なリリック・テノール歌手、エルンスト・ヘフリガーを父に持つピアニスト、アンドレアス・ヘフリガー。15歳でニューヨークのジュリアード音楽院へ入学してすぐに注目を集め、ニューヨーク・フィルにロイヤル・コンセルトヘボウ管、ベルリン・ドイツ響など、世界有数のオーケストラと共演を重ねてきた。最近ではあらゆる時代の作曲家の作品とともにベートーヴェンのピアノ作品を全曲演奏する「パースペクティブ」と題したシリーズを開催中だが、2020年3月にもロンドンのロイヤル・フェスティバル・ホールで、ベートー5/21(木)19:00 東京文化会館(小)問 プロアルテムジケ03-3943-6677https://www.proarte.jp©Marco Borggreveヴェンのピアノ協奏曲第4番や合唱幻想曲がプログラムされるなど、積極的にベートーヴェンと向き合っている。 そんな彼が、ベートーヴェンのピアノ・ソナタの最難曲「ハンマークラヴィーア」、そして超絶技巧と豊かな音楽性を試されるムソルグスキーの「展覧会の絵」を引っ提げて久しぶりの来日。聴衆にヴィヴィッドな印象を与えるコントラストの烈しい演奏を堪能してほしい。©H.IkezawaCD『鏡の中の鏡』マイスター・ミュージックMM-4075¥3000+税3/25(水)発売

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