eぶらあぼ 2020.4月号
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68山田和樹(指揮) 東京都交響楽団今、作曲家三善晃のメッセージを見つめ直す文:江藤光紀第903回 定期演奏会Aシリーズ 5/8(金)19:00 東京文化会館問 都響ガイド0570-056-057 https://www.tmso.or.jp 戦後75年、戦争を直接知る世代はますます少なくなった。東京が空襲の犠牲者の転がる焼け野原だったなど、もはや悪い冗談のようにしか思われないが、それは厳然たる事実である。 戦争を題材にした音楽の中でも、三善晃の「レクイエム」(1971)ほどその苛烈さを生々しく再現した作品はないだろう。この作品が初演された時、聴衆は激しいショックを受けたという。戦争の記憶が強く残っていたこともあろうが、何よりフランス風の流麗な書法を身に付けた三善が、突如知的な意匠をかなぐり捨て、反戦詩や特攻隊員の言葉を前衛作曲家も真っ青の激しい音響の渦の中に怒号のようにこだまさせたのである。この作品は三善の創作の転機となり、「詩篇」(1979)、「響紋」(1984)といった続編で、〈花いちもんめ〉や〈かごめかごめ〉といった童謡に仮託しながら、三善は戦争によって分かたれてしまった死者との不可能な対話を繰り返していくのである。 日本人のアイデンティティをえぐる、このいわゆる「反戦三部作」は、名作として知られながら大規模な編成や内容の重さもあって再演が多いとは言えない。だからこそ、次世代の楽壇のリーダーを嘱望される山田和樹が取り上げる意義は大きい。思えば、山田は東京混声合唱団と2007年に「レクイエム」ピアノ伴奏版で、若いエネルギーが迸るすさまじい演奏を聴かせているが、今回はさらに武蔵野音楽大学合唱団、東京少年少女合唱隊が加わる。世界的な活躍を通じて一回り大きくなった山田が、都響を相手に日本の隠された精神史をどう描き出すのだろうか。山田和樹 ©Yoshinori Tsuru紀尾井ホール開館25周年記念 室内オーケストラ・フェスティヴァル世界の精鋭集団が名技を競う!意欲的な企画が実現文:山田治生7/17(金)19:00、10/7(水)19:00、2021.1/17(日)15:00、1/23(土)16:00、1/24(日)14:00 紀尾井ホール問 紀尾井ホールチケットセンター03-3237-0061 https://kioihall.jp/chamberorchfes/ それまで室内オーケストラにふさわしい中規模音楽専用ホールがなかった東京に、800席の紀尾井ホールが誕生したのは、1995年のことであった。それと同時に紀尾井シンフォニエッタ東京(現・紀尾井ホール室内管弦楽団)が創設された。 紀尾井ホールは、2020年度に開館25周年を記念して、このホールに最も適した編成といえる室内オーケストラをフィーチャーした、「室内オーケストラ・フェスティヴァル」を開催する。 フェスティヴァルの開幕に登場するのは、川瀬賢太郎&オーケストラ・アンサンブル金沢。モーツァルトの序曲集とピアノ協奏曲第23番(独奏:菊池洋子)に、細川俊夫のモーツァルトへのオマージュであるピアノ協奏曲的な作品、「月夜の蓮」を組み合わせた、興味津々のプログラム(7/17)。 ヴァイオリンの名手、リチャード・トネッティ率いるオーストラリア室内管弦楽団の来演も楽しみ。ベートーヴェンとヤナーチェクの2つの「クロイツェル」をトネッティ自身による編曲を並べた意欲的な選曲を披露する(10/7)。 古楽ではイル・ポモドーロがチェンバロのフランチェスコ・コルティとともに初来日。バッハのチェンバロ協奏曲などが予定されている(2021.1/17)。 フェスティヴァルの最後を飾るのは紀尾井ホール室内管弦楽団。ウィーン・フィルのコンサートマスターとして活躍、紀尾井ホール室内管の首席指揮者も兼務するライナー・ホーネックの指揮で、彼の十八番であるシューベルトの「未完成」交響曲、シュトラウス・ファミリーのワルツなどを楽しむ(1/23,1/24)。紀尾井ホール室内管弦楽団 ©ヒダキトモコイル・ポモドーロ ©Julien Mignotオーストラリア室内管弦楽団 ©Paul Hendersonオーケストラ・アンサンブル金沢

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