eぶらあぼ 2020.4月号
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60ニルス・メンケマイヤー(ヴィオラ) モーツァルト・プロジェクト ~ライナー・クスマウルをしのんで~恩師への追悼の思いを込めた二夜 文:柴田克彦モーツァルト・プロジェクト1 4/9(木)19:00 モーツァルト・プロジェクト2 4/10(金)19:00トッパンホール問 トッパンホールチケットセンター03-5840-2222 http://www.toppanhall.com 4月のトッパンホール「モーツァルト・プロジェクト」は、“室内楽の殿堂”の面目躍如たる公演だ。中心をなすのはニルス・メンケマイヤー。ドイツ生まれの彼は、自然で温かな音楽を聴かせる“ヴィオラ新世代の旗手”であり、まずはその自在の奏法と豊かな表現力が存分に披露される。さらに本公演は“ライナー・クスマウルをしのんで”と銘打たれている。3年前に逝去した名ヴァイオリニストにして名教師であり、当ホール草創期の恩人でもある偉大な音楽家をしのんで、影響を受けた演奏家を中心とする実力者が集い、モーツァルトを主軸とした名作を二夜にわたって奏でる。それも大きな趣旨だ。 出演者は、学生時代に感化されたメンケマイヤーの他、直接師事した日下紗矢子と田島高宏、若き日に共演した久保田巧(以上3名ヴァイオリン)、日下の音楽仲間アンドレアス・ヴィルヴォール(ヴィオラ)、卓越した俊英・岡本侑也(チェロ)、メンケマイヤーの盟友ウィリアム・ヨン(ピアノ)という凄腕の名手たち。プログラムは、稀代の名作たる弦楽五重奏曲K.515、516を各日に配し、初日はK.516ト短調、幻想曲ハ短調、ピアノ四重奏曲ト短調等で“モーツァルトの短調”の深淵を抉る。2日目はK.515ハ長調等に、2017年に発見されたショスタコーヴィチの即興曲(要注目!)とヴィオラ・ソナタが続く。作曲者の“白鳥の歌”である同ソナタは、極限まで純化された深遠なる傑作。これはクスマウル追悼の念と同時に、メンケマイヤーによる楽曲の新境地も期待される。この意味深い二夜、共に足を運ばすにはおれない。©Irene Zandelアレクサンドル・ラザレフ(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団秘曲オペラなど、若きラフマニノフの傑作2編を強力な布陣で一挙演奏文:林 昌英第720回 東京定期演奏会 5/15(金)19:00、5/16(土)14:00 サントリーホール問 日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 https://www.japanphil.or.jp 日本フィルの指揮台に、今年もアレクサンドル・ラザレフがやってくる。毎回猛烈なリハーサルを重ねてオーケストラから強靭な響きを引き出し、聴衆の興奮を誘うラザレフ。昨年からは定期演奏会でオペラ(演奏会形式)という新機軸を打ち出し、かつてボリショイ劇場の芸術監督を務めたラザレフによるオペラの名演が体験できるようになった。 この5月定期はラフマニノフ・プロだが、10代で書いた2作品という珍しい組み合わせ。まず、わずか17歳でのピアノ協奏曲第1番。現行版は44歳の年に改訂したもので、粗削りな若々しさと洗練された彫琢が同居した魅力作である。世界的に活躍する名手、小川典子の力強く美しいピアノで本作を聴けるのは貴重そのもの。 さらに注目を集めるのが、歌劇《アレコ》。19歳、モスクワ音楽院の卒業作だが、すでにオーケストレーションは卓越しており、数々の美しいアリアに舞曲や間奏曲などオペラとしての聴きどころも十分。ラフマニノフの天才を示す出世作にして快作だ。ストーリーは妻の裏切りに悩む主人公アレコが妻とその愛人を殺してしまうというもので、ラザレフは昨年のマスカーニ《カヴァレリア・ルスティカーナ》以上に、その愛憎を壮烈かつ劇的に聴かせてくれるはず。歌手も、ラザレフがボリショイ劇場デビューに導いたニコライ・エフレーモフ(バリトン)が主役を務め、安藤赴美子(ソプラノ)、大槻孝志 (テノール)ほか、日本人歌手も全員主役級の贅沢な布陣。待望のラザレフのロシア・オペラ、その真髄を体験しない手はない。安藤赴美子 ©Shingo Azumayaアレクサンドル・ラザレフ ©山口 敦小川典子 ©S.Mitsutaニコライ・エフレーモフ

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