eぶらあぼ 2020.4月号
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55今日の音楽の中でもベートーヴェンの存在感は際立っています取材・文:片桐卓也 ベートーヴェンの生誕250年にあたる2020年に開催されるラ・フォル・ジュルネ TOKYO(LFJ)のテーマは「Beethoven−ベートーヴェン」だ。思い返せば05年にLFJが初めて東京で開催された時のテーマも「ベートーヴェンと仲間たち」だったが、当然のことながらプログラムの内容としてはかなり違ったものになる。2020年のベートーヴェンはどうなるのか? アーティスティック・ディレクターのルネ・マルタンに聞いた。 「ベートーヴェンの残した音楽は、21世紀の現在に至るまで、多くの人たちに影響を与えてきました。そしていまだに影響を与え続けている。他の作曲家の場合、一時的に注目を集めることはあっても、その影響が長続きはしない。その点で特別な作曲家と言えるでしょう」 ベートーヴェンの影響の広がりを知るために、マルタンは現代において彼の影響から出発した様々なプロジェクトを探したという。その一例がアメリカの指揮者、作曲家であるスティーヴ・ハックマンによる「ベートーヴェン vs コールドプレイ」であり、ここでは「英雄」の音楽に現代のロックバンドであるコールドプレイの音楽が組み合わされる。もうひとつの例がクラシックとラテン音楽のフュージョン・ピアニストであるヨアキム・ホースレイによる「ハバナのベートーヴェン」である。 「今日の音楽の中でもベートーヴェンの存在感というものが際立っているということが分かります。現在でもベートーヴェンを巡ってたくさんのプロジェクトが行われている。すべての世代の中でベートーヴェンはいまだに生き続けているのです」 日本ではほとんど知られていないベートーヴェンをテーマとするこうした最新プロジェクトが紹介されるのも、LFJの魅力のひとつである。 もちろんベートーヴェンの作品そのものもたくさん取り上げられる。交響曲全曲、協奏曲は「ピアノ協奏曲0番」などを含む8曲、ピアノ・ソナタ全32曲に弦楽三重奏全曲。有名な室内楽のほか、様々な合唱曲、歌曲など、ベートーヴェンのほとんどのジャンルを網羅する。 「そして、19世紀にたくさん作られたベートーヴェンの編曲作品も重要です。19世紀を通してベートーヴェンの楽曲は6000曲もの編曲作品として親しまれていたのです。驚くべき数字ですよね。その中からリスト、ワーグナー、カルクブレンナー編曲によるピアノと合唱のための『第九』の編曲を取り上げます。カルクブレンナー編曲ではシラーの歌詞もフランス語に訳されており、毎年たくさんの人が『第九』を演奏する日本では、特に興味深い作品となるのでは? でも、これは楽譜を探すのがとても大変でした。インターネットで簡単に見つかるものではないので、色々なアーカイヴを探しました」 ピアノ・ソナタ全曲は11のコンサートで11人の若手ピアニストによって演奏される。 「LFJでは1回のコンサートが45分程度なので、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲を演奏するにはどうしても11回という回数が必要になります。そこで“五輪精神”を意識して、世界の様々な国出身の若いピアニストで全曲を演奏したらどうなるだろう、というアイディアを思い付きました。そのほとんどが初来日という若いピアニストですが、その中には未来の巨匠となる人も含まれていると思うので、ぜひ全員に注目してほしいですね」 ベートーヴェン演奏で評価の高いラルス・フォークト、フランソワ=フレデリック・ギィ、フランク・ブラレイ(以上ピアノ)など、実力派の演奏家もたくさん参加する2020年のLFJ。これまで何度も足を運んでいる方にはお気に入りのアーティストもいるだろうし、未知の才能を探したいという方も多いだろう。ここでしか聴けない音楽があるのもLFJの魅力。そして今年は「未知」のベートーヴェンに出会うチャンスとなるだろう。Informationラ・フォル・ジュルネ TOKYO 2020前夜祭:5/1(金) 本期間:5/2(土)、5/3(日・祝)、5/4(月・祝)東京国際フォーラム、大手町・丸の内・有楽町、京橋、銀座、日本橋、日比谷https://www.lfj.jpProle世界各地で年間約1500もの公演を手掛ける音楽プロデューサー。青少年期にジャズとロックに没頭。10代でクラシックの素晴らしさに目覚める。クラシック音楽祭の企画を手掛け始めた頃、ロックバンドU2のコンサートで数万人もの若者が熱狂している姿を見て、クラシック音楽でも若者たちを熱狂させられるはずと確信。誰もが上質な音楽を気軽に楽しめる音楽祭を作りたいという思いから、1995年にフランス・ナントで「ラ・フォル・ジュルネ」を開始。

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