eぶらあぼ 2020.4月号
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182というヒザがぶっ壊れそうなジョージアの伝統ダンスがテーマの『ダンサー そして私たちは踊った』。もうひとつは若い女性なのだが天才を通り越して「怪物」とまで言われるフラメンコ・ダンサー、ロシオ・モリーナの創作過程を追うドキュメンタリー映画『衝動―世界で唯一のダンサオーラ』である。 正統派のフラメンコ・ダンサーとして数々の賞を取りながら、彼女の表現世界は境界を大きく越えて広がり、コンテンポラリーの領域でも高く評価されている。全存在をダンスに向かって放擲する、強靱で純粋なその姿には、本当に圧倒される。 じつは彼女の話は、以前から海外を含め複数のダンス関係者から聞いていた。特に衝撃だったのはシャイヨー国立劇場での『グリト・ペラオ』という作品。彼女はレズビアンであることを公言し、人工授精で妊娠し、なんと腹が大きくなってくる時期に合わせてあえて公演を打つという、ちょっと常軌を逸した作品である。再演は難しかろうね……。 この映画は『グリト・ペラオ』より前に作られたものだが、その苛烈なまでの創作姿勢は画面にみなぎっている。そして3月には映画の中で制作していた作品『カイーダ・デル・シエロ』が最高のタイミングで日本公演される…… 予定だったのだが、なんとコロナ騒ぎで中止に。映画の公開も延期になってしまった。しかしただでは終わらん! 遅れはするが映画は公開されるし、中止になった公演の過去のライヴ映像も上演される。負けてはいられんぜ!第66回 「横浜の国際イベント群と、『怪物』といわれたダンサー」 終息どころかますます広がる新型コロナウイルス騒動。チケットが完売していたバットシェバ舞踊団をはじめ、多くの公演がキャンセル・中止になり、舞台芸術にとっては計り知れないダメージになっている。 騒動が本格化し始めた2月には横浜ダンスコレクション(以下、ダンコレ)、舞台芸術関係者が出会い・話し合うTPAM、香港・ソウル・横浜が持ち回りで行うフェスティバルHOTPOTなど国際的な舞台芸術のイベントが集中して開催された。 特にダンコレは今年25周年。フランスの有名国際振付コンクールをはじめ多くの海外フェスと連携して、日本の若い才能を見いだしては世界につなげてきた。アジアのフェスがダンコレのやり方を学んだし、欧米のフェスがアジアのダンスを知る貴重な機会として、大きな役割を果たしてきたのである。 これらのレビューは朝日新聞やダンスマガジンに書いたので、ここではTPAMと、注目の映画について書いておこう。 まず香港で女性の様々な問題をテーマに踊るWONG Pik Kei『Bird-Watching』は香港の舞踏といわれる作品。天井に吊り上げられた赤い巨大なオブジェに頭がスッポリ入って首から下は全裸の女性ダンサー。舞踏でいう「命懸けで突っ立った死体」どころか首から上が宙づりであり、上下にせめぎ合う身体は力に満ちていた。 ピチェ・クランチェン『No.60』はタイ古典舞踊の基本59の型(テーパノン)を「手首の回転が腕の旋回に関連していく」など近代的な視点から分析・精査し、CGや実演で解説。さらに独自の6つの新しい踊りの原則を提示していくというもの。伝統という知の集積を、小技ではなく正面から乗り越えようとする偉大な挑戦だった。 さて、古典という意味では、同様に注目すべき映画が公開される。ひとつは「ジャンプから膝で着地」Proleのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。うまい酒と良いダンスのため世界を巡る。http://www.nori54.com乗越たかお

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