eぶらあぼ 2020.4月号
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172CDCDCDCDエネスク:ヴァイオリン・ソナタ第3番、バルトーク:同第1番/戸田弥生&エル=バシャノヴェレッテン シューマン ピアノ作品集Ⅺ/小林五月月光 ベートーヴェン・アンソロジー上野優子リサイタル with FAZIOLIスカルラッティ・ドビュッシー・プロコフィエフエネスク:ヴァイオリン・ソナタ第3番「ルーマニアの民俗様式で」/バルトーク:ヴァイオリン・ソナタ第1番戸田弥生(ヴァイオリン)アブデル=ラーマン・エル=バシャ(ピアノ)R.シューマン:ノヴェレッテン小林五月(ピアノ)ベートーヴェン:エリーゼのために、ピアノ・ソナタ第14番「月光」第1楽章、交響曲第5番「運命」第1楽章、同第8番第3楽章、フルート三重奏曲 ト長調 第3楽章 他カール=アンドレアス・コリー フリードリヒ・ヴィルヘルム・シュヌアー(以上ピアノ) 工藤重典(フルート) 磯部周平(クラリネット) 岡崎耕治(ファゴット) ネッロ・サンティ(指揮) NHK交響楽団 他スカルラッティ:ソナタ ロ短調 K.27/L.449、同ホ長調 K.531/L.430、同イ長調 K.533/L.395/ドビュッシー:版画、エレジー/プロコフィエフ:風刺(サルカズム)、ピアノ・ソナタ第3番、同第4番、束の間の幻影より第17曲「詩的に」 他上野優子(ピアノ)オクタヴィア・レコードOVCL-00717 ¥3000+税コジマ録音ALCD-7251 ¥2800+税マイスター・ミュージックMMKK-7046 ¥2300+税収録:2018年12月、すみだトリフォニーホール(小)(ライヴ)フォンテックFOCD20123 ¥2700+税文字通りの入魂の演奏である。東欧の民族色を湛えたモダンな2曲を、戸田弥生とエル=バシャのコンビが凄まじい集中力で弾き切った。「ルーマニアの民俗様式で」という副題の付いたエネスクのソナタはロマを想起させる節回しが特徴的だが、ヴァイオリンはフレーズの隅々に隠れた民衆のスピリットを余すところなく現前化する。ピアノが控えめなタッチでそれを包み込むと、歌心がきりっと立ってくる。激しく熱するフィナーレの勢いのまま、バルトークへと突入。情熱と瞑想をモダンなセンスで表現し、民族の精神を理知的に昇華したこのソナタの肝をがっちりと捕まえ、その本質へと肉薄していく。(江藤光紀)2005年からシューマンのピアノ独奏曲全曲演奏会を開催し、並行してCD収録を行っている実力者・小林五月のシリーズ11枚目のアルバム。彼女は全8曲を明快に表現し、明暗や動静をはじめとする様々な陰影を見事に描き分けている。これは確かな技術の中で知性とパッションが絶妙な均衡を保った演奏ともいえようか。全曲にわたって聴き応え充分の音楽が続き、中でも長い第5曲や第8曲の自然かつ鮮やかな情景変化が光っている。既出盤はいずれも高い評価を得ているが、今回も初期一連の楽曲の中では演奏機会の少ない作品の魅力を再認識させる好ディスクだ。(柴田克彦)生誕250年という一大アニヴァーサリーを味わうには、こういう穏やかなアルバムもいい。マイスター・ミュージックによる名演奏家たちのベートーヴェン録音から、作品番号のない愛らしい初期作品から中期の傑作、後期の名品まで、工夫された選曲でアンソロジーが編まれた。2月に亡くなったサンティ指揮の交響曲の一部が聴けるのはうれしいし、シュヌアーのピアノや工藤重典のフルートなど、手堅い演奏陣も同レーベルならでは。冒頭と末尾に「エリーゼのために」を置き、末尾の方はフルートのオブリガート付きの編曲版というのもユニーク。楽聖の温和な横顔が浮かんでくる一枚。(林 昌英)上野優子は、楽曲から様々な色彩を引き出すことが可能な変化に富んだ音色と確かなテクニックを兼ね備えたピアニスト。全6回の公演で使用するピアノを変えながらプロコフィエフのソナタを全曲演奏するシリーズを行っており、本盤はその第2回の模様を収録。ファツィオリを使用し、プロコフィエフの第3番、第4番のソナタにスカルラッティのソナタ、そしてドビュッシーの「版画」など多彩なプログラムで鮮やかに変化する音色を聴かせてくれる。特筆すべきはプロコフィエフ作品。非常に情感豊かな演奏で、どこか冷たく弾かれがちなこの作曲家の作品の本質を見事に引き出している。(長井進之介)

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