eぶらあぼ 2020.4月号
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170CDCDJ.S.バッハ:パルティータ(全6曲)/野平一郎ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」/久石譲&東響ポンセ:スペインのフォリアによる変奏曲とフーガ/マリア・エステル・グスマンシューベルト:美しい水車屋の娘/ディートリヒ・ヘンシェル&岡原慎也J.S.バッハ:パルティータ第1番~第6番野平一郎(ピアノ)ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」久石譲(指揮)東京交響楽団モレル:ブラジル風舞曲/ピアソラ(M.E.グスマン編):リベルタンゴ/アニード:ミサチーコ/デルガド・ジョパルト:花咲く桜の木の陰で/ユパンキ:こおろぎのサンバ/ロドリーゴ:トリプティコ/ポンセ:スペインのフォリアによる変奏曲とフーガマリア・エステル・グスマン(ギター)シューベルト:歌曲集「美しい水車屋の娘」ディートリヒ・ヘンシェル(バリトン)岡原慎也(ピアノ)収録:2019年9月、浜離宮朝日ホール(ライヴ)ナミ・レコードWWCC7917-8(2枚組) ¥3500+税収録:2019年6月、サントリーホール(ライヴ)オクタヴィア・レコードOVCL-00719 ¥3000+税マイスター・ミュージックMM-4074 ¥3000+税日本アコースティックレコーズNARD-5067 ¥2800+税これまで、奏者としてだけでなく楽譜校訂者としてもJ.S.バッハの作品に向き合ってきた、ピアニスト、作曲家の野平一郎が、バッハにとって組曲創作の総決算だったと考えるパルティータ全曲を一夜で演奏した際のライヴ録音。一音ずつ大切に刻むように音が鳴らされ、“うまみ”が染み出すようなハーモニーが響く。野平自身ライナーで「作曲家の脂の乗り切った筆の運び」を感じると記しているが、細部まで神経の行き届いた音の連なりが、自然なうねり、流れとなって大スケールで広がる。多彩な感触の音が重なりあう第6番まで聴き終えると、充実した気持ちで満たされる。(高坂はる香)“ロックのような”ベートーヴェンの交響曲全集が好評を博している久石譲の東響との初録音。これもあらゆるフレーズが生命力を放ちながら躍動する快演だ。まずは既成概念に囚われずに構築された音のバランスが実に新鮮。ベートーヴェン同様にリズムの明確さも耳を奪い、中でも遅い場面における各リズムの明示が清新な感触をもたらしている。全体に速めのテンポでキビキビと運ばれ、特に快速部分はスピード感抜群だが、その中に流れるフレーズのしなやかさも見逃せない。東響もこまやかな好演。音楽的感興と生理的快感を併せ持つ新たな「春の祭典」の登場だ。(柴田克彦)ロドリーゴをして「セゴビアの後継者」と言わしめたマリア・エステル・グスマン、マイスター・ミュージックから約2年ぶり、2枚目のアルバムが登場。豪快さを前面に出すよりも繊細かつ立体的に音のグラデーションをレアリゼしていくかのような落ち着いた奏楽は、確かにロドリーゴの言を頷かせるものがある。その意味でどちらかと言えば「ギターの通人」向きの演奏とも言えるが、そんな彼女の技巧と音楽性がこの上なく見事に表出されたのが収録時間の半分近くを占めるポンセ作品。さりげなく完璧な難技巧の披露は、どこまでも余裕があり典雅。この1曲を聴くためだけにでも買う価値がある。(藤原 聡)現代ドイツを代表する名バリトンで、リート解釈・歌唱の第一人者であるディートリヒ・ヘンシェル。フィッシャー=ディースカウ亡き今、その正統な後継者と目されている名手が、「美しい水車屋の娘」の20年ぶりとなる再録音に臨んだ。言葉ごとに施される、音楽的かつ理知的な表情づけ。過剰な感情移入を排するからこそ、シューベルトの旋律の美しさと、ミュラーが詩の随所に織り込んだ音韻との、妙なる関係性が浮き彫りに。そして、まるで川のごとき、全20曲を通しての流れの良さは特筆もの。ピアノの岡原慎也も、絶妙のバランス感覚で饒舌さと抑制を操る、名アシストぶりだ。(寺西 肇)CDSACD

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