60上岡敏之(指揮) 新日本フィルハーモニー交響楽団後期ロマン派から新ウィーン楽派へ―濃厚な色香漂う響き文:山田治生第617回 定期演奏会 ジェイド〈サントリーホール・シリーズ〉3/19(木)19:00 サントリーホール特別演奏会 サファイア〈横浜みなとみらいシリーズ〉 第11回3/21(土)14:00 横浜みなとみらいホール問 新日本フィル・チケットボックス03-5610-3815 https://www.njp.or.jp 1月の定期演奏会でシューベルトの交響曲第6番やメンデルスゾーンの交響曲第4番「イタリア」を演奏して、幸先の良い2020年のスタートを切った上岡敏之&新日本フィル。3月の定期演奏会でも、上岡が得意とするドイツ=オーストリア音楽を取り上げる。 プログラムは、ウェーベルンの「パッサカリア」で始まる。そして、それはメインのブラームスの交響曲第4番第4楽章のパッサカリアへとつながる。「パッサカリア」とは、固執低音(オスティナート)にもとづく変奏曲をいう。上岡はとりわけ音色に対するこだわりが強く、音色旋律という概念を持つようになるウェーベルンの初期の作品をどう再現するのか、非常に注目される。 ウェーベルンの「パッサカリア」は、もう一方で、彼とともにシェーンベルクの弟子であったベルクの作品につながる。いわゆる新ウィーン楽派。彼らは十二音技法で知られるが、この日演奏されるベルクの「7つの初期の歌曲」は、彼の作曲家としての初期の作品であり、微妙な調性感を残す。その官能的な甘美さは、熟れた果実を思わせる。作曲年代も、ウェーベルンの「パッサカリア」とほぼ同じ、1908年頃である。独唱を務めるのはユリアーネ・バンゼ。オペラでもリートでも活躍するドイツ出身の彼女は、歌手として今が最も脂ののっている時期ではないだろうか。アバド&ウィーン・フィルとベルクの「アルテンベルク歌曲集」や「ルル」組曲の録音を残す名歌手だけに、「7つの初期の歌曲」での歌声が楽しみである。ヨーヨー・マ(チェロ) バッハプロジェクト無伴奏チェロ組曲に平和への祈りをこめて文:寺西 肇3/28(土)16:30 沖縄コンベンションセンター 展示棟問 ピーエムエージェンシー098-898-1331 https://www.legare-music.info 「この分裂の時代にあって、文化が生み出す共通の理解こそ、私たちを“ワンワールド”として結び付け、人類全体に恩恵をもたらす、政治的・経済的な決断へ導くことができます。私たちは皆、文化的な存在なのです。文化が我々をどう結びつけ、より良い未来を築くのに役立つのか、共に探究しましょう」 ヨーヨー・マは、こう人々に呼びかける。彼はもはや、単なるチェリストではない。人々の平和と喜びを祈る、崇高なる求道者なのだ。 そんな彼が2018年8月、バッハの無伴奏チェロ組曲を携え、2年間の長い旅に出た。最初にチェロを習い始めた4歳の時から、自身にとっての“聖書”である全6曲を、世界36の場所で弾く彼の姿は、さながら巡礼者のよう。この「バッハプロジェクト」は、当作品とヨーヨー・マとの60年にわたる関係だけでなく、人々の対話が不和へと向かいつつある時にも、人間性を共有して語ることができるバッハの音楽のもつ力も、動機となったという。 その日本公演は、アーティスト自身の強い希望で実現した、沖縄での1ステージ限り。当初は首里城での開催を計画していたが、昨年10月31日の火災により、やむなく会場が変更に。75年前の悲劇だけでなく、新たな悲しみとその再生への願いを込めた演奏となろう。ステージの前後には、ヨーヨー・マが地元の人たちと交流するイベントも行われる。 文化と対話、それぞれの場所に特有の環境、そこで成されるクリエイティヴな経験。これら全てが、人類の未来を切り拓いてゆく。さあ、チェリストの“祈り”に耳を澄まそう。©Jason Bellユリアーネ・バンゼ ©Stefan Nimmesgern上岡敏之 ©武藤 章
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