eぶらあぼ 2020.3月号
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55彌勒忠史プロデュースバロック・オペラ絵巻《アモーレとプシケ》(セミ・ステージ形式/日本語字幕)3/19(木)18:00、3/20(金・祝)14:00 紀尾井ホール問 紀尾井ホールチケットセンター03-3237-0061 https://kioihall.jp https://ebravo.jp/amore/彌勒忠史(カウンターテナー/制作総指揮・脚本)ギリシャ神話に込められた“愛の本質”を和洋の美を結集して描く取材・文:那須田 務Interview 《アモーレとプシケ》の公演が近づいてきた。様々な作曲家の楽曲を繋ぎ合わせて歌劇に仕立てるのはバロック・オペラの手法の一つ(パスティッチョ)だが、今回は大変に手が込んでいる。なにしろ、ギリシャ神話の物語をもとに彌勒忠史がオリジナルの台本を執筆。音楽はすべて初期バロック、それに日舞や能楽、コンテンポラリーダンスが加わるというのだから。はたしてどんな舞台になるのだろう。 「文楽の“人間版”と思っていただけるといいかと思います。初期バロックのスペシャリスト集団アントネッロとソプラノの阿部雅子さんらの演奏を背景に、花柳凜さんや観世喜正さんと梅若紀彰さん、コンテンポラリーダンスの白髭真二さんが演じます。基本的にドラマは歌手の皆さんによる日本語のセリフで進行し、それを舞で表現する。和と洋、そして時代を超えて、21世紀の日本だからできるプロダクションだと思います。 日本にオペラが入って久しいですが、そろそろ一目見て日本の作品と分かり、海外の劇場から求められるような舞台作品があってもいいと思うんです。それは日本の伝統芸能とクラシックの両方を公演している紀尾井ホールだからこそ可能なのです。そもそも能や歌舞伎と初期バロックの音楽はとても相性がいい。オペラと歌舞伎はちょうど同じ17世紀初頭に生まれていますし、能はさらに古い伝統がある。それに当時の西洋音楽とは、即興的な要素が強いという点で通じます」 主役の白髭真二と花柳凜など出演者については。 「チラシでご覧のように、お二人ともビジュアル的に大変美しい。お能の喜正さん、紀彰さんのお二人も、それぞれの流派の看板を背負う方々ですが、新しいことに挑戦する気概をお持ちです」 音楽の聴きどころは古楽歌唱のスペシャリストたちが歌い奏でる名曲の数々だ。 「本公演では登場人物たちの心情を歌で表現しますが、まさに17世紀の声楽曲の名曲選です。この公演にいらしていただければ、この時代の音楽を知っているぞ、と言えるくらい、音楽のエッセンスが詰まっています」 最後にアモーレとプシケの物語が現代に投げかけるメッセージは何か問うと、彌勒は「ギリシャ神話では愛の神はエロス。それは世界の始まりで万物を結び付けて新たなものを創造する。それこそが愛の本質。様々な分野の芸能を一つに結び付け、まったく新しい舞台芸術を作り上げる、今回の舞台の主題にこれほどふさわしいものはないと思います」と熱を込めて語った。第494回日経ミューズサロン アイレン・プリッチン ヴァイオリン・リサイタル鬼才も認める逸材がヴェールを脱ぐ文:柴田克彦 昨年2月のクルレンツィス指揮ムジカエテルナのサントリーホール公演で、前代未聞の出来事が起きた。前半の演目(管弦楽曲)終了後に、突然コンサートマスターのソロでチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲の第3楽章がアンコールとして演奏されたのだ。ソロは濃厚かつ鮮烈。別公演でコパチンスカヤが弾いた曲を、異なる表現で鮮やかに聴かせた。さらにはイザイまで。満場を仰天させたその奏者アイレン・プリッチンが、3月に日本初リサイタルを行う。実は彼、2014年のロン=3/11(水)18:30 日経ホール問 日経公演事務局03-5227-4227 http://www.nikkei-hall.comティボー国際コンクールで優勝し、ヴィエニャフスキ、クライスラー等のコンクールでも良績を残した1987年ロシア生まれのソリスト。モスクワ・フィルやロシア国立響等とも共演し、CDもリリースしている。 ストラヴィンスキー、ブラームス、プロコフィエフ(得意の作曲家)、ラヴェルの作品が並ぶ今回のプログラムは、技術とセンスが問われる好内容。ピアノの共演は長谷川美沙。ここは“オイストラフ以来の天才”と評される逸材の真価を知るために、ぜひ足を運びたい。

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