eぶらあぼ 2020.3月号
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46©大窪道治小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩⅧ J.シュトラウスⅡ世:喜歌劇《こうもり》3/20(金・祝)、3/22(日)各日15:00 ロームシアター京都問 ロームシアター京都チケットカウンター075-746-32013/25(水)18:30 東京文化会館問 小澤征爾音楽塾 東京公演事務局0570-084-7353/29(日)15:00 愛知県芸術劇場問 東海テレビチケットセンター052-951-9104https://ozawa-musicacademy.comクリスティアン・アルミンク(指揮)《こうもり》はもれなく素晴らしい音楽です取材・文:柴田克彦Interview 2003~13年に新日本フィルの音楽監督として活躍し、17年からは広響の首席客演指揮者を務めるなど、日本でもおなじみのクリスティアン・アルミンク。この3月、小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトにおけるJ.シュトラウスⅡ世の喜歌劇《こうもり》で、音楽監督の小澤と指揮を分け合う。昨年の《カルメン》に続いての出演だ。本プロジェクトは、オーディションで選抜された若手演奏家がオーケストラを作り、一流の歌手たちとともに作品を創る貴重な機会となる。 「まず私の役割はマエストロ小澤を補佐することだと心得ています。小澤さんは時間が許す限りその場にいて、私が指揮する時にも傍に座っておられますので、私はそのもとで塾生たちの演目の理解を深めることができればと考えています。昨年の《カルメン》の経験で得たことは2つあります。1つは塾生たちが真剣かつ貪欲に取り組み、短期間で成長すること。2つ目は小澤さんのエネルギーです。特に塾生のベストを引き出さんとする強い姿勢には感銘を受けました。決して諦めない小澤さんの指導で、彼らが持っている以上のものが引き出されていると思います」 アルミンクは若き日にウィーンで小澤と出会い、タングルウッドでは学生として学んだ。新日本フィルの音楽監督も小澤の推薦だ。それゆえ根底には多大なリスペクトがある。 「指揮者としての途轍もない実力に加えて音楽家として素晴らしい。さらにはオーケストラとのコミュニケーションの取り方、音楽に対する謙虚な姿勢など、尊敬すべき点が多々あります」 当音楽塾での役割分担も自然に決まるという。 「肌感覚のようなものです。キャリアの初期から小澤さんと接する機会がありましたので、リハーサルで次に何を言うかがわかりますし、テンポなどの解釈も理解しています。今回も小澤さんに1幕でも多く指揮していただきたいと思っていますが、例えどこで代わっても問題はありません」 彼自身《こうもり》は、「学生時代にブルガリアのソフィアでプロ・デビューした際の演目」であり、「音楽監督を務めたルツェルン響や新日本フィルなどでも指揮している作品」。だが指揮者にとっては意外に難儀だという。 「ドイツのカペルマイスターなどに一番大変な演目を聞くと、《こうもり》を挙げる人が多いですね。それはJ.シュトラウス特有のウィーンのダンス音楽の要素にあります。“遅すぎず速すぎず”の適切なテンポを維持するのが一番難しい。また人生を謳歌するような音楽を持ちながら、物語は冗談じみています。そこを軽いタッチで伝えるのは大きな挑戦であり、魅力でもあります」 その点、彼にはウィーン生まれの強みがあるし、何より作品自体が「傑作揃い」だ。 「《こうもり》には駄作の部分が一切ありません。このもれなく素晴らしいという点が特徴ですよね。注目のシーンを1つ挙げると、ロザリンデが歌う〈チャールダーシュ〉。これは声の高低差が求められる難しい箇所です。もちろんお客さんには、ウィーン的なスタイル、ワルツやポルカの要素を楽しんでほしいのですが、軽快な音楽を一皮めくるといつも暗いものを抱えているのが実にウィーン的。そこもぜひ感じていただきたいですね」 今回の舞台は、大好評だった16年と同じMETのオーセンティックなプロダクション。アルミンクが 「大学が一緒で長年の知り合い」だと話すアイゼンシュタイン役のアドリアン・エレートをはじめ、著名歌手が顔を並べ、牢番フロッシュ役でマツコデラックスも出演する。ウィーン子アルミンクの指揮も、小澤ともども大いに楽しみだ。

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