eぶらあぼ 2020.3月号
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40 庄司紗矢香は挑戦する表現者だ。創作への情熱は、演奏の分野にとどまらない。美術にも関心が深く、絵画の個展をひらき、現在は映像作品を中心に創作を行っている。 「視覚のインタープリテーションは、音楽のインタープリテーションと同じで常に変わりゆくもの。創っていくプロセスも同じ」と彼女は語る。 「譜面を読み、構成や和声をアナライズした上で、空気中に漂っている何かを盗み取り、耳に聞こえる音、あるいは目に見える形にしていくというプロセスです。音楽をしているのと同様に、常に変わり続ける感覚、そして無意識を捉えて残していくということに今も興味を感じます」 この3月には、ダンス芸術の偉才、勅使川原三郎と佐東利穂子との3人で、新作『三つ折りの夜』の創造に臨む。勅使川原とのコラボレーションは2011年、東京のラ・フォル・ジュルネを始まりに、ヴェネツィア、ナントに続き、4度目となる。 「非常に面白いのは創っていく過程での話し合いです。舞台上ではともに呼吸し、エネルギーを共有していることを感じます。これは音楽家同士の共演においても、いつも起こり得ることではありません」 勅使川原と佐東のダンスに、庄司が魅力的な“音楽”をみているからこそだろう。 「各自の確固たるスタイルをお持ちですが、二人合わさると対となり完ともなり得ると感じます。『音楽に合わせて踊る』とか『音楽的表現をする』という次元ではなく、『彼ら自体が音楽である』、または『彼らが動くと溶けて音楽になる』と言ったほうが正しいかもしれません。お二人はもっとも音楽に近いダンサーだと思います」  この春の新作の選曲に関してはストラヴィンス勅使川原さんのダンスにマラルメの詩に共通するものを感じます取材・文:青澤隆明キー、バッハ、イザイなどを庄司が提案、シルヴェストロフ、バルトーク、ヒンデミットの作品も含めて、7曲ほどが舞台に盛り込まれる見通しだ。実際の内容構成は最終段階で練り上げられる。「自分がどう見えるかという意味で自分の身体の動きを意識したことはありません」とヴァイオリニストは言う。「しかし内的な身体の感覚は奏でられる音に影響しますので、それぞれの作品でどんな音を求めるかをもとに、毎回追求しています」。 期待の新作は、マラルメのフランス語詩『三つ折りのソネ』から想を得た創作。「詩情とは困難ゆえの美ではないか」と勅使川原は演出ノートに記している。 「私は勅使川原さんのダンスとマラルメの詩に共通点を感じています。霊的であり、虚無感や不吉感、例えば仄暗い夢の中で経験した美しい何かに執着して思い出そうとするような感覚です。今回は1週間強、リハーサルの時間があります。今それぞれのサイドで成熟してきているものの融合から、何ができてくるのかは、私もまだわかりません。これは楽譜のある楽曲の演奏を他の演奏家とともに創ってゆく際にも言えることですが、今回は勅使川原さんというユニークな芸術家と究極の化学実験のようなものができることを私自身は楽しみにしています」interview 庄司紗矢香 Sayaka Shoji/ヴァイオリン勅使川原三郎ダンス公演『三つ折りの夜』詩人マラルメ「三つ折りのソネ」より3/6(金)19:30、3/7(土)16:00、3/8(日)16:00 東京芸術劇場 プレイハウス問 東京芸術劇場ボックスオフィス0570-010-296http://www.st-karas.com https://www.geigeki.jp3/12(木)19:00 愛知県芸術劇場コンサートホール問 愛知県芸術劇場052-971-5609https://www-stage.aac.pref.aichi.jp©Norizumi Kitada / UMLLC

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