eぶらあぼ 2020.2月号
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45カーチュン・ウォン(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団話題のカーチュン、マーラー「5番」で初登場!文:林 昌英第718回 東京定期演奏会〈春季〉3/6(金)19:00、3/7(土)14:00 サントリーホール問 日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 https://www.japanphil.or.jp インキネンにラザレフ、小林研一郎、山田和樹というタイプの違った名指揮者陣を擁し、幅広い表現力を獲得している日本フィル。その効果は客演指揮者による定期演奏会の好調ぶりでも明らか。去る12月にはアレクサンダー・リープライヒのもと、欧州の楽団のような鮮烈かつ豊麗なサウンドを実現し、見事な名演を披露したことは記憶に新しい。 3月の定期には、1986年シンガポール生まれのカーチュン・ウォンが客演する。2016年第5回グスタフ・マーラー国際指揮者コンクール優勝、18年9月にはニュルンベルク交響楽団首席指揮者に就任し、世界的に注目を集めている若きマエストロ。旋律をよく歌わせて高揚感も十分な音楽づくり、そして誠実な人柄で、常に共演楽団の評判も良いという。その力量への期待は、日本フィルが今回初共演で東京定期、しかもマーラーの交響曲第5番を任せるということからもひしひしと伝わる。冒頭の葬送から最後の熱狂まで、複雑な感情が交錯する大曲だが、作曲者の名を冠するコンクールを制したウォンの名演に期待が募る。 前半は20世紀アルメニアの作曲家アルチュニアンのトランペット協奏曲。この人気作品のソロを務めるのは、同団ソロ・トランペット奏者のオッタビアーノ・クリストーフォリ。09年入団以来、輝かしい名奏を重ねて存在感抜群の名手だが、1986年イタリア生まれ、まだ30代前半の俊英だ。しかもウォンとは同い年ということで、若々しい勢いと経験豊かな貫禄を併せもつふたりによる、息の合った快演が楽しみだ。新国立劇場 モーツァルト《コジ・ファン・トゥッテ》夜のキャンプ場で起こる危険な恋愛ゲーム文:飯尾洋一3/18(水)18:30、3/20(金・祝)14:00、3/22(日)14:00、3/24(火)14:00 新国立劇場 オペラパレス問 新国立劇場ボックスオフィス03-5352-9999 https://www.nntt.jac.go.jp/opera/ 名作オペラのなかには「音楽は最高なんだけど、ストーリーに説得力がなく、ピンと来ない」という作品もある。時を経ても音楽は古びていないけれど、物語はすっかり古びてしまった、というケースだ。しかし、まれに物語がまったく古びていない、むしろ現代的だと思える作品もある。モーツァルトの《コジ・ファン・トゥッテ》がそうだ。二組のカップルが、ほんの戯れから、お互いの恋人を交換することになってしまう。恋人への忠誠心と浮気心の間で揺れる女たち、プライドを傷つけられる男たち。現代のテレビドラマのテーマになってもまったくおかしくない。 3月、新国立劇場では定評あるダミアーノ・ミキエレット演出の《コジ・ファン・トゥッテ》が上演される。2011年に初演されたこの演出では、舞台が現代のキャンプ場に設定されている。大胆な読み替えだが、一夜の危険な恋のゲームの舞台として、キャンプ場ほどふさわしい場所もない。キャンプ場で夜を過ごす若者たちには事件が起きるもの。ホラー映画なら連続殺人鬼がやってくるところだが、オペラでは恋人の交換が始まるのだ。このオペラは演出家にとって挑戦しがいのある作品だろう。演出により、幕切れはハッピーエンドにもバッドエンドにもなりうる。 音楽面では歌手たちのアンサンブルが聴きどころ。世界の主要歌劇場で活躍するエレオノーラ・ブラット、アンナ・ゴリャチョーワら、充実の歌手陣が集う。指揮は経験豊富なパオロ・オルミ。モーツァルトの音楽はいつだって最高だ。2013年公演より 撮影:三枝近志オッタビアーノ・クリストーフォリカーチュン・ウォン

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