eぶらあぼ 2020.2月号
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38 ©藤井亜紀長尾洋史(ピアノ)意欲的な録音とライヴで示す独自の世界観取材・文:飯田有抄Interview ソリストとしてもアンサンブル奏者としても厚い信頼を寄せられているピアニスト長尾洋史が、新たな録音シリーズを始動させた。その名も『ピアニズム』。シンプルにしてストレートなタイトルのもと、第1弾と第2弾を続けてリリースする。1枚目はバッハの「ゴルトベルク変奏曲」、2枚目はドビュッシーの「前奏曲集」全曲だ。時代も国も音楽的書法もまったく異なる2作品である。 「バッハとドビュッシーの音楽はたしかに違うけれど、共通項も多くあり、どちらもいわゆるロマンティックな音楽ではありません。私自身、どんな作品に対しても『感情』という側面からアプローチすることは絶対になく、その音楽がどう演奏されるべきなのかを客観的に探り、それに沿って弾くというのが基本的な姿勢です。その意味でロマン派よりも、バッハやドビュッシーに惹かれるのかもしれません。いずれこのシリーズにシューマンなども加えたいとは思いますが、ロマン派の音楽に対しても、自分の感情がどうとか、自分のものにしてしまおうなどとは思えません。音楽とは、自分のものにしたと思った瞬間に、手のひらから逃げていってしまうものなのです」 バッハの演奏に大切なのは「中庸さ」だと長尾は語る。 「過去の名人たちの演奏には、変奏ごとにテンポや音色や強弱を変えてメリハリをつけているものもありますが、私はこの作品に一貫して感じられる“機嫌のよさ”や“音楽の喜び”が、全体に行き渡っているようなものにしたかった。ですから、ものすごい興奮や、沈み込むような表情をつけようという発想はなかったですね。バッハの音楽を前にジタバタしても仕方がありません。奏者の『その人らしさ』は結果的に滲み出たとしても、ひけらかすものではありませんから」 ドビュッシーは、子どもの頃から「死ぬほど好きな作曲家」だったという。 「レコードで聴いた『牧神の午後への前奏曲』にヤラれちゃってね(笑)。私は北海道の根室標津に生まれ、美幌育ち。ピアノは小学5年生までずっと独学でしたが、ドビュッシーのピアノ曲は、練習曲集と『映像』以外、すべて自分で弾いていました」 レコーディングは、ドビュッシーが愛したベヒシュタインのピアノがある新潟県の魚沼市小出郷文化会館で行った。 「素晴らしい環境の中、音の伸びや減衰が美しいピアノでレコーディングができました。私は音の消えかかるところ、切るところを大事に考えています。音が上手に切れたら、空白が生きる。空白が生きると、次に来る音への期待が高まる。そんな音楽づくりを大切にしています」ディートリヒ・ヘンシェル(バリトン) 美しき水車小屋の娘現代ドイツの名バリトンによる至高のシューベルト文:片桐卓也 オペラ、リート、宗教曲など、どのジャンルでも精力的な活動を行っているドイツの歌手ディートリヒ・ヘンシェル。近年で注目される彼の活動の中に、歌曲に含まれる豊かな文学的内容を視覚化して伝えようとするプロジェクトがあり、シューベルトの「白鳥の歌」舞台版をモネ劇場(ブリュッセル)などで上演している。以前から録音などを通してヘンシェルの歌うシューベルトに親しんでいた方も多いだろうが、ヘンシェルは2019年、日本で「美しき水車小屋の娘」の録音を行い、それが間もなくリリースされる予定である(日本アコースティックレコーズ)。2/2(日)14:00 札幌コンサートホール Kitara(小)問 Kitara チケットセンター011-520-1234 https://www.kitara-sapporo.or.jp2/6(木)19:00 東京文化会館(小)問 オーパス・ワン03-5577-2072 http://opus-one.jp他公演(札幌交響楽団との共演)2/7(金) サントリーホール(カジモト・イープラス0570-06-9960)©Partricia Wilenski ドイツの巨匠フィッシャー=ディースカウの弟子で、その後継者とも称されるヘンシェルだが、50歳を超えて作り出す歌曲の世界は、より深まりを見せている。繊細に歌の世界に寄り添うピアノの岡原慎也とともに、シューベルトの傑作「美しき水車小屋の娘」をこの2月に歌うが、それはヘンシェルの「現在」を知る貴重な機会となるだろう。長尾洋史 ピアノリサイタル4/4(土)15:00 東京/プリモ芸術工房問 プリモ芸術企画03-6421-6917https://primoart.jpCD『ピアニズム1 J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲 BWV988』NIKU-9025『ピアニズム2 ドビュッシー:前奏曲集 第1巻&第2巻』NIKU-9026 2/10(月)発売レック・ラボ(録音研究室) 各¥2800+税

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