34飯森範親(指揮) 東京交響楽団ラヴェルとファジル・サイの新作に読む異文化への憧憬文:小室敬幸東京オペラシティシリーズ 第113回 3/21(土)14:00 東京オペラシティ コンサートホール問 TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511 http://tokyosymphony.jp 音楽監督ジョナサン・ノット率いる東京交響楽団の絶好調ぶりはすでに広く知られた通り。ノット、秋山和慶と並んで、今の東響に欠かせぬ存在が正指揮者を務める飯森範親である。ノット以上に攻めた選曲で刺激的、かつ新たな世界に出会う歓びを感じさせてくれているのだ。 今回のプログラムはラヴェルを中心にしつつも、大人気ピアニストで作曲家のファジル・サイによって書き下ろされた、チェリスト新倉瞳のための新作が披露される。ユダヤの民族音楽クレズマーなど、クラシックの枠からはみ出るような音楽にも力を注ぐ新倉にとって、サイの音楽は相性抜群。これまでもチェロ・ソナタなどで、松脂が飛び散るような熱い演奏を聴かせてくれており、2018年11月には来日中のサイからの呼びかけで急遽、飯森、新倉を交えた三者で打ち合わせをするなど、準備もつつがない。新作「11月の夜想曲」でどんな世界に出会えるのか実に楽しみだ。 一方、ラヴェルの選曲も面白い。19世紀のウィーンを回顧する「ラ・ヴァルス」に、スペインに題材をとった「道化師の朝の歌」「スペイン狂詩曲」「ボレロ」と、ラヴェルが異文化へ思いを馳せた作品が並ぶ。各国でナショナリズムが高まる現在だからこそ、様々な文化にクロスオーバーした楽曲や音楽家の地道な活動の意義は高まっている。今後は、ピアニストとして以上に、作曲家として名前を見かける機会がどんどんと増えていくであろうサイの最新作に注目だ。新倉 瞳 ©Takaaki HIirata サー・アンドラーシュ・シフ ピアノ・リサイタルブラームス、そしてドイツ音楽の至高を聴く文:柴田克彦3/12(木)、3/19(木)各日19:00 東京オペラシティ コンサートホール3/17(火)19:00 大阪/いずみホール問 カジモト・イープラス0570-06-9960 http://www.kajimotomusic.com他公演3/14(土) 彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホール(0570-064-939)3/15(日) 札幌コンサートホール Kitara(011-520-1234)※全国ツアーの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。 2019年11月にアンドラーシュ・シフが弾き振りしたベートーヴェンのピアノ協奏曲全曲演奏を聴いて、彼のリサイタルへの渇望感を覚えた。協奏曲が物足りないのではなく、むしろ逆。各曲の性格に即して吟味された多様な音色と、無用な力の抜けた、それでいて実のある力感と瑞々しさを湛えた名演を耳にして、シフの音楽への感興を改めて刺激されたのだ。彼が現代最高の奏者の一人であるのは周知の事実。古楽奏法を含めた探求を極めつくして音楽の真実のみを語る表現は至高の域に達している。しかしながら、協奏曲でみせた“さりげなくも限りない深みと味わい”は、次のリサイタルへの期待を著しく増幅させた。 半年も経たない3月にそれが実現する。しかも“さりげなくも限りない深みと味わい”の特質にこの上なく相応しいブラームス最晩年の小品集が主軸。これは実にタイムリーだ。今回は2つのプログラムを通じて、ブラームスのop.116、117、118、119およびop.76の前後にバッハ、ベートーヴェン等の名作が置かれ、冒頭をメンデルスゾーンとシューマンの若干レアな作品が飾るドイツ音楽集が用意されている。“ブラームスと彼が影響を受けた作曲家”による示唆に富んだプログラムは、いかにもシフらしいし、ベートーヴェン作品が、有名曲にやや隠れた中期後半の第24番「テレーゼ」と第26番「告別」である点も興味をそそられる。それに何より、ブラームスが晩年の諦観や燻る情熱を綴った珠玉の4作の全てを、シフの演奏で味わえるのはまさに僥倖。両プログラムともに体験したい、言うまでもなく必聴の公演だ。©Nadia F Romanini飯森範親 ©山岸 伸
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