30大野和士(指揮) 東京都交響楽団還暦のシェフが贈るブリテン異色の大作とフランス管弦楽の名品文:江藤光紀第897回 定期演奏会Bシリーズ 3/4(水)19:00 サントリーホール問 都響ガイド0570-056-057 https://www.tmso.or.jp 大野和士は近現代の「もっと聴かれるべき名曲」の紹介に執念を燃やし、私たちの耳を開いてきた。イギリスの大家ベンジャミン・ブリテンも「戦争レクイエム」をはじめ積極的に取り上げてきたが、都響3月定期には作曲家35歳時の大作「春の交響曲」が登場する。 1948年から二年がかりで書かれた本作は、中世から20世紀に至るイギリスの詩人の春についての詩を集め、4部12曲にまとめたものだ。交響曲と銘打ってはいるが、独唱・合唱・少年合唱を含む大規模な声楽曲で、春の訪れを告げる生命の息吹に始まり、夏の到来を讃える爆発的な歓喜へと至る。終楽章の角笛に導かれた巨大なカノンが壮観だ。 戦争の惨禍と新時代の訪れという曲の精神を正しく伝えるには、何よりパワフルな歌が不可欠だ。中村恵理(ソプラノ)、清水華澄(メゾソプラノ)という日本を代表する女声陣に、北欧系テノールのトピ・レティプーが加わる。貴公子然としたいで立ちで欧州オペラ界で人気を集めているレティプーにも注目したい。合唱には大野自らが芸術監督を務める新国立劇場合唱団、さらに東京少年少女合唱隊というトップ団体を惜しげもなく投入し、鉄壁の布陣で臨む。 前半はベルリオーズの快活な《ベアトリスとベネディクト》序曲、ドビュッシーの舞踊詩「遊戯」と、フランス近現代の作品を集めた。作曲家晩年の「遊戯」は、より抽象的な表現世界を切り開いたとして、戦後の前衛作曲家たちから高い評価を得た音楽だ。ブリテン作品とともに、20世紀前半の管弦楽芸術の広がりと豊かさを体感してほしい。《バロック・ライヴ劇場》第11回公演アマンディーヌ・ベイエ & リ・インコーニティ ~めくるめくバロック音楽ツアー~フランス古楽界を牽引するアンサンブルの躍動感あふれるステージ文:寺西 肇3/10(火)19:00 王子ホール問 王子ホールチケットセンター03-3567-9990 https://www.ojihall.jp他公演 3/11(水) 大阪/いずみホール(06-6944-1188)、3/13(金) 松本市音楽文化ホール(0263-47-2004)、3/14(土) 高崎芸術劇場 音楽ホール(027-321-3900)、3/15(日) 三鷹市芸術文化センター(0422-47-5122) 「ピリオド楽器の演奏に挑戦することがどれほど刺激的か、音楽の創造とは何と儚くも美しい芸術だと痛感するか…そして、すべての瞬間を私たちがいかに愉しむべきであるか。古楽奏者なら誰でも、私と同じように公言するでしょう」 バロック・ヴァイオリンの名手で、古楽新世代の旗手とも目される、フランス出身のアマンディーヌ・ベイエは言う。彼女が主宰し、ユニークな視点から選んだ作品を、刺激的なプレイで聴かせているアンサンブル「リ・インコーニティ」。王子ホールへ3度目の登場を果たし、彩り豊かな佳品を紡ぐ。 キアラ・バンキーニら古楽界の先駆者たちの薫陶を受け、数々のコンクールでの実績と第一線アンサンブルでの活躍を重ねたベイエ。2006年に立ち上げた「リ・インコーニティ」は、設立当初から、鮮烈なサウンドで聴衆を驚かせ続けている。 今回は、欧州で大活躍する気鋭のバロック・ヴァイオリン奏者、川久保洋子を含めた8人編成での来日。明るい陽光に溢れた大バッハのヴァイオリン協奏曲ホ長調(BWV1042)と、多感様式の典型とも言うべき次男カール・フィリップ・エマヌエルのチェンバロ協奏曲イ短調(H430,Wq26)、父子の対照的な作品を軸に。そして、エマヌエルの名付け親でもあるテレマンの協奏曲から、4本のヴァイオリンのみで通奏低音すら伴わない、ユニークな編成で書かれたト長調(TWV40:201)と、弦楽のための変ロ長調(TWV43:B1)の2曲を披露。さらに、彼らが規範としたヴィヴァルディによるリュート協奏曲(RV93)とシンフォニア(RV157)を聴く。リ・インコーニティ ©Clara Honorato中村恵理清水華澄 ©Takehiko Matsumotoトピ・レティプー ©Monica Rittershaus大野和士 ©Rikimaru Hotta
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