eぶらあぼ 2020.2月号
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29小泉和裕(指揮) 九州交響楽団 東京公演“勝負曲”で東京の聴衆を唸らせる文:奥田佳道3/14(土)19:00 サントリーホール問 九響チケットサービス092-823-0101 http://www.kyukyo.or.jp 音楽的にブレないマエストロのタクトに導かれ、ファンの声援も熱い九州交響楽団。さらなる高みへ。 世代交代も功を奏し、演奏のクオリティをぐっと高めている九響が、音楽監督の小泉和裕とともに実に16年ぶりの東京公演を行う。プログラムはベートーヴェンの交響曲第4番変ロ長調と、変ホ長調を基調としたリヒャルト・シュトラウスの交響詩「英雄の生涯」。今の九響を映し出す好選曲で、管弦打楽器の妙技、ソロコンサートマスター扇谷泰朋の独奏も聴きどころとなる。 1953年に創設され、1973年に改組しプロ化された九響は、石丸寛、森正、安永武一郎、フォルカー・レニッケ、黒岩英臣、若き日の小泉和裕、山下一史、大山平一郎、秋山和慶らと歩んできた。秋山の首席指揮者時代(2004~13年)にリヒャルト・シュトラウスやマーラー、近代フランス音楽、声楽曲で評価を高め、13年から小泉が音楽監督に就任。九響創立65周年記念の定期演奏会(18年9月)を彩ったマーラーの「千人の交響曲」はCD化された。小泉=九響のマーラーはこの2月にも交響曲第3番(19年7月定期のライヴ録音)がリリースされる。 レパートリーという翼を広げつつある九響。3月、満を持しての東京公演のメイン「英雄の生涯」は、昨年70歳を祝った小泉和裕がここぞという場面で指揮してきた勝負曲のひとつでもある。音楽監督就任から7年。引き締まった音楽観を掲げ、奇をてらうことなく大曲に臨む小泉と、豪胆さ、包容力も魅力となる九響の交歓を体感したいものである。小泉和裕 ©勝村祐紀(勝村写真事務所)フィリップ・ジャルスキー(カウンターテナー) & アンサンブル・アルタセルセまさに変幻自在! 麗しき美声の愉悦に浸る文:岸 純信(オペラ研究家)3/13(金)19:00 東京オペラシティ コンサートホール問 東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999 https://www.operacity.jp フランスが誇るカウンターテナー、フィリップ・ジャルスキーの声には「飛翔感」がある。歌声がどこまでも高く登りゆくような、軽やかな浮遊性を備えているからだ。筆者は彼に二度対面したが、その際に「貴方の声は、天使の・・・翼を持っているような」と話すと、ジャルスキーはまず目を見開き、それからにこっと微笑んだ。「天使の声」と称されることにはどうも食傷気味であったけれど、「翼」の一語に心が動いたのだという。ジャルスキーの歌いぶりはまさしく、音楽の大空を自由に翔びゆく、広い翼を感じさせるものなのだ。 この3月、そのジャルスキーが6年ぶりに来日し、手兵のアンサンブル・アルタセルセとともにリサイタルを開催する。曲目は18世紀のイタリア語の独唱曲をたっぷり揃えたもの。ヴィヴァルディで纏めた前半ではカンタータ「やめてくれ、もうやめてくれ」にまずは注目。心の昂ぶりが強烈なフレージングで表現されるだろう。一方、歌劇《オリンピーアデ》のアリア〈眠っている間に〉では逆に、ゆったりした恍惚の境地が展開する。また、後半のヘンデルでは、セレナータ「パルナッソス山の祭礼」のアリアが聴きもの。妻を失ったオルフェーオの悲痛な心境がリュートや弦の儚げな音色とともにゆっくりと滲みでる。また、歌劇《ラダミスト》の憤激のアリアでは、力強いコロラトゥーラが白い炎のように燃え上がるに違いない。実演でこそ伝わる「美声の羽ばたき」をぜひ聴き取ってみて欲しい。フィリップ・ジャルスキー ©Josef Fischnaller/Erato - Warner Classics

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