2420世紀ロシアが生んだヴァイオリン協奏曲の傑作と向き合う取材・文:オヤマダアツシ 三浦文彰が弾くショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番を、すでにコンサートで聴いた方も多いだろう。少年時代に、この曲を作曲者とともに創造したと言えるダヴィド・オイストラフの録音を聴いて心を動かされ、17歳の時に初めてコンサートで弾いたという作品だが、演奏を重ねながら作品への理解を深めてきた。その曲を、ソビエト〜ロシアの伝統が息づくチャイコフスキー・シンフォニー・オーケストラ(旧モスクワ放送交響楽団)と録音し、ひとつの足跡を記している(19年10月に発売)。 「技術的にはもちろんですが、曲の背景を探る必要があるなど非常に難しい曲。体力的にも精神的にもキツく集中力を必要としますが、弾いていると特別な気持ちになれる作品でもあります。ショスタコーヴィチが生きたソビエトの時代はまったく知りませんでしたが、ウィーンで習ったパヴェル・ヴェルニコフ先生がオイストラフの生徒ですし、当時を知っているロシアの音楽家からもいろいろな話を聞いて、国の監視や制限が厳しかった様子を知ることができました。この協奏曲も完成していながら批判を怖れて7年くらい発表できず、スターリンが死んだ後にようやく初演されただけに、強い思いがこもっていると思います。暗くて重いけれど、その反面に第4楽章がブルレスケというおどけた音楽になっていて、皮肉めいたところも感じますよね。ショスタコーヴィチの音楽を弾くには裏読みも必要でしょうし、弾くたびに新しい発見はあります」 曲の構成においても第3楽章に約10分を要するカデンツァがあるなど独特だ。 「あれは、オイストラフあってのカデンツァでしょうね。難易度は高くても弾いていて無理がないですし、それでいて説得力がすごい。僕は第4楽章へと向かう長い道のりのように思えますし、どの楽章とも違ったキャラクターがあります。今回の録音は、ショスタコーヴィチの音楽を何度も演奏し続けてきたオーケストラだったのがよかった。楽員の中にはソビエト時代を知っている人もいますから、伝統というものの重みをあらためて感じました」 その協奏曲第1番を生で聴きたいという方は、2月末から3月上旬にかけて行われるエーテボリ交響楽団の日本ツアーで。さらには6月27日に東京・Bunkamura オーチャードホールで行われる「スーパーソロイスツ2020」において、この協奏曲とプロコフィエフの協奏曲第2番を一気に演奏するというプログラムも予定されている(共演:沼尻竜典指揮東京フィルハーモニー交響楽団)。 「どちらの作曲家もクセが強めで、ショスタコーヴィチは過激だけれどどこか温かみがあり、プロコフィエフの方が尖っていて、伝記などを読む限りひねくれた人だという印象をもちました。そうしたキャラクターの違いも面白いですし、いろいろな音色に生かしたいです」 弾く機会がほとんどないというショスタコーヴィチの2番、プロコフィエフの1番も「声がかかればいつでも!」という状態のようなので、三浦文彰のロシア音楽には今後も目が離せない。interview 三浦文彰Fumiaki Miura/ヴァイオリンスーパーソロイスツ20206/27(土)14:00 Bunkamura オーチャードホール問 チケットスペース03-3234-9999 https://avex.jp/classics/soloists2020/他公演(エーテボリ交響楽団との共演)2/28(金)川崎、2/29(土)西宮、3/1(日)名古屋、3/2(月)金沢、3/5(木)福岡http://www.t-gc.jp ※全国ツアーの詳細は左記ウェブサイトでご確認ください。CD『ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番、ハチャトゥリアン:「ガイーヌ」より』エイベックス・クラシックスAVCL-25998 ¥3000+税©Yuji Hori
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