185門での受賞である。美しく強烈な身体性で深く熱い内面世界を描き、暴力や性的な内容に踏み込むことも恐れない。ただ細部に気を配らないと、狙いとは真逆の意味に取られる恐れがあると思えた。 アジア勢が活躍したが、従来の常連だった日本や韓国ではなく、今回は中国、台湾、ベトナムが受賞。情勢は刻々と変化している。とくに世界を舞台に活躍するアジアの若いダンサーたちの技術の高さは凄まじい。日本と違い、国を挙げてダンス教育に注力している差が如実に出ている。そのためここ数年で、世界のダンス関係者の認識は「アジアのダンサーは、とりあえず高いテクニックを持っているもの」となりつつある。 日本は1980年代に舞踏が世界的にブレイクしたこともあり、「技術に囚われるより個人のキャラクターを尊重すべき」という考えが根強い。これもひとつの真理で世界的な共通認識でもある。しかし、たとえば「新4回転時代」と言われている現代の男子フィギュアスケートで、4回転ジャンプがなければ、「え? やんないの?」と肩すかし感を抱くだろう。評価とは相対的なものだ。隆盛するアジアのダンスの中で、日本のダンスが「ガッツリ見せる技術がない、あるいは技術を活かせない演出でキャラクター頼みの作品」のように映ってしまうのは、そう遠いことではないだろう。きみはそこで何を踊るのか。第63回 「スペインMASDANZAで審査。そして激変するアジアで日本は?!」 先月号で書いたイタリアからスペインに移動してグラン・カナリア島へ行ってきた。オレらの世代では大瀧詠一の名曲「カナリア諸島にて」でおなじみだ。国際ダンス・フェスティバル、マスダンサ(MASDANZA)から、コンペティションの国際審査員を頼まれたのである。今回24回目を迎えるこのフェスは日本でもよく知られている。創始者で芸術監督のナタリア・メディナが、2006年に横浜ダンスコレクションと連携したのを契機として、いまやアジアと連携するヨーロッパ有数のフェスとなっている。 コンペティションは、ソロ部門と振付部門それぞれ8作品である。ソロ部門で優勝したのはイスラエルのロニ・ハダス『GOOFY』。これまでも何度か書いたが、首を後ろに反らせ顔を隠す独特なスタイルだ。振付部門はスペインのアルナウ・ペレス・デ・ラ・フエンテ『YOUNG BLOOD』が優勝。ヒップホップをベースとしたイキのいい三人が踊り切った。 ベスト・パフォーマンス賞のリン・ティンシュウ(台湾)『THE INVINCIBLE SWIFTNESS OF THE GOLDEN CROW』は神話世界を描く。踊った女性ダンサーのウェン・ユンチュウが素晴らしかった。 オレがアドバイザーをしているソウルのNDAフェス選出のツー・ホアン『TRIAL』は息の合ったデュオで、ベトナムからの初参加にして振付部門準優勝。ソロ部門準優勝は、迫力のある動きと繊細な表現で父との確執を描いたイタリアのジョヴァンニ・レオナルドゥッツィ『SONO SOLO TUO PADRE』が獲得した。 中国北京のゴン・シンシンは、並々ならぬ将来性を感じさせた。ソロ部門『LOST』は観客賞、振付部門『EXIT』は観客賞とアコラン賞と、なんと両部Proleのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。うまい酒と良いダンスのため世界を巡る。http://www.nori54.com乗越たかお
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