eぶらあぼ 2019.12月号
63/205

60マーティン・ブラビンズ(指揮) 東京都交響楽団“イギリス音楽の伝道師”の面目躍如たる好プログラム文:江藤光紀第895回 定期演奏会Bシリーズ 2020.1/16(木)19:00 サントリーホール 問 都響ガイド0570-056-057 https://www.tmso.or.jp/ イングリッシュ・ナショナル・オペラの音楽監督をはじめ、世界の有名歌劇場に客演しているマーティン・ブラビンズだが、日本では何といってもイギリス音楽の伝道師として知られる。都響への客演でも数多くの名曲を届けてくれたが、1月B定期では作曲家たちが身近な人々に向けた親愛なる音のあいさつを集めた、とっておきのプログラムが聴ける。 ラヴェル「クープランの墓」は典雅なバロック組曲の形式を借りたクープランへのオマージュだが、6つの楽章のそれぞれは第一次大戦に従軍し命を落とした友人たちに捧げられている。このフランスの佳品は、後半に置かれたエルガーの「エニグマ(謎)変奏曲」と響きあう。自作の主題に基づく14の変奏曲は、それぞれがエルガーの身の回りの人物の特徴を捉えたポートレイトにもなっているのである。各変奏に付されたタイトルやイニシャルに、人物を特定するヒントが隠れている。とりわけ有名な「ニムロッド」(第9変奏)は、楽譜出版社に勤めていた知人にエルガーが付けたあだ名である。 間に挟まれるのが、日本初演となるジェイムズ・マクミランの「トロンボーン協奏曲」(2016)だ。ダイナミズムや娯楽性を程よく備えたイギリス現代音楽は世界を席捲中だが、マクミランもそうしたムーヴメントを担う一人。孫娘の死をきっかけに作曲された本作は、トロンボーンのグリッサンドが儚い哀歌を呼び出だす。独奏のヨルゲン・ファン・ライエンはロイヤル・コンセルトヘボウ管の首席を務める名手で、本作をはじめ多くの初演を任されてきた手練れだ。ヨルゲン・ファン・ライエン ©Marco Borggreveヘルムート・ブラニー(指揮) ドレスデン国立歌劇場室内管弦楽団コンサートもマーケットも、古都ドレスデンのクリスマスに浸る夜文:オヤマダアツシ12/3(火)19:00 東京オペラシティ コンサートホール問 ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212 https://www.japanarts.co.jp/※全国公演の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。 12月になると音楽シーンにも本格的なクリスマス・シーズンが到来。「第九」公演と並んで多彩なプログラムによるクリスマス・コンサートが、聴き手の心を温めてくれる。日本でも多くのファンを有するシュターツカペレ・ドレスデン(ドレスデン国立歌劇場管弦楽団)の室内オーケストラによる公演は、クラシックの名曲でこの時期を祝うと同時に、落ち着いた古都のサウンドを堪能できるプログラムだ。 パッヘルベルの「カノン」で始まるコンサートは、麗しい弦楽の響きで心が躍るモーツァルトのディヴェルティメント(K.136)、優美な曲調で幕を開ける交響曲第29番と続き、後半はヴィヴァルディの「四季」より〈冬〉へ。そして、ユニークなフィナーレで笑いを誘いそうなハイドンの「告別」交響曲を演奏し、バロックから古典派音楽のエッセンスを聴かせてくれる。指揮台に立つのはシュターツカペレ・ドレスデンのコントラバス奏者であり、この室内管弦楽団を創設したヘルムート・ブラニー。つまり“ドレスデンのファミリーたち”による伝統のサウンドが、幸福なオーラとなってホールにあふれるということだ。 さらにはホールのホワイエに、このコンサートならではの「クリスマス・マーケット」が出現。洒落たドイツのクリスマス・グッズなどが並び、気分を盛り上げてくれるだろう。輝かしい当日の演奏も、音楽家たちからのクリスマス・プレゼントだ。ドレスデン国立歌劇場室内管弦楽団マーティン・ブラビンズ ©Benjamin Ealovega

元のページ  ../index.html#63

このブックを見る