eぶらあぼ 2019.11月号
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83「魔法のピアノ」田中正也ピアノリサイタル11/17(日)14:00 すみだトリフォニーホール(小)問 スタジオ・プレスティッシモ  080-6205-8285https://www.masayatanaka.jp/CD『魔法のピアノ』ナミ・レコードWWCC-7909 ¥2500+税10/25(金)発売©Shigeto Imura田中正也(ピアノ)ロシア音楽に深く共鳴するピアニストの人気公演、東京で初開催取材・文:伊熊よし子Interview 15歳で単身モスクワに渡り、モスクワ音楽院でパーヴェル・ネルセシアン、ミハイル・ヴォスクレセンスキーという名教授に師事し、現在もロシアと日本を往復しながら活発な演奏活動を展開している田中正也。彼のひとつの代名詞となっている「魔法のピアノ」と題した、みんなが知っている曲と彼ならではのこだわりの曲を紹介するコンサートは、2010年に愛知県の宗次ホールでスタートした。 「当初は一度だけと思っていたのですが、第1回が超満員になり、その後も人気が各地に広がっていきました。10年目の今年、東京でも公演を行います」 11月17日には、すみだトリフォニーホール(小ホール)で、CD『魔法のピアノ』(ナミ・レコード)リリース記念コンサートが開催される。この新譜はシベリウス「樅の木」から始まり、得意とするプロコフィエフのピアノ・ソナタ第6番などを経て、武満徹の「雨の樹 素描」で幕を閉じるという趣向だ。 「『魔法のピアノ』というタイトルにはピアノに魔法をかけたように音色を紡ぎ出す、見えないはずのピアノの音から風景が浮かんで見える、など色々な思いがこめられており、選曲も自分にしか弾けないレアな曲を含んでいます。今回のCDにはプロコフィエフのソナタ第6番をぜひ収録したかった。私はロシア作品が大好きですが、とりわけこのソナタは20年前から弾き込み、コンクールや演奏会で何度も取り上げています。プロコフィエフは小学生のころに魅了され、日本との接点もありますから、私にとってとても大切な作曲家です」 プロコフィエフの魅力を語り出したら止まらない、という感じの田中。モスクワ音楽院大ホールでプロコフィエフの協奏曲第3番を演奏した直後に帰国、大きなトランクを持ったままこのインタビューに登場した。ロシア語も堪能でインタビューや記者会見も現地の人のようにこなす。日本よりもロシアにいた方が自分らしくいられるそうで、ロシアのコンクールを受けたときには、「精神的にロシア人だ」と高評価を得た。ロシアという土地にしっかり根を下ろし、「魔法のピアノ」モスクワ公演も行い、音楽を通じ日露の架け橋となっている。 「このコンサートではトークを交え、聴衆に語りかけながら進めます。音楽が生み出す凝縮した魔法の時間を全員で共有したいんです!」と語る田中。 とてもユニークなキャラクターだが、ひとつ面白かったのは、キリンが大好きだということ。 「キリン語がわかるんですよ。キリンと会話できるといったらいいのかな。動物園では、キリンといつまでも話しています」 これには大笑い。こんなピアニスト、これまで会ったことがない。11/10(日)14:00 京都コンサートホール アンサンブルホールムラタ問 京都コンサートホール075-711-3231 https://www.kyotoconcerthall.org/第23回 京都の秋 音楽祭 フォーレに捧ぐ新世代の名手たち5人が織りなす深淵なる響き文:伊藤制子 数々の国際的な賞を受賞し、活動の幅を広げている俊英5人。そんな次代を担う奏者たちが一堂に会した「フォーレに捧ぐ」が、11月10日に開催される。古都を彩る「第23回 京都の秋 音楽祭」の一環で行われる注目の演奏会だ。出演はピアノの北村朋幹、そしてヴァイオリンの山根一仁、毛利文香、ヴィオラの田原綾子、チェロの上野通明による2011年結成のエール弦楽四重奏団。選曲はフォーレの2曲の名作ピアノ五重奏曲とシェーンベルク(ウェーベルン編)の室内交響曲第1番というチャレンジ精神に満ちた3曲である。フォーレの2曲はまさに「秋」にふさわしい秀作だ。憂いを帯びた典雅な旋律美と深淵な和声の響きに満ちており、「大人の音楽」かもしれないが、若き奏者たちはどのようにこの曲に挑むのか、楽しみである。シェーンベルク作品では、この曲のシャープな味わいを細部まで際立たせてくれることになろう。エール弦楽四重奏団 ©Hideki Shiozawa北村朋幹 ©TAKUMI JUN

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