eぶらあぼ 2019.11月号
83/209

80©Naoya Yamaguchi(Studio☆DiVA)ひばり弦楽四重奏団昨年結成のチームがベートーヴェン・プロジェクトを始動&初CDリリース!取材・文:片桐卓也Interview ヴァイオリンの漆原啓子を中心にした「ひばり弦楽四重奏団」がベートーヴェンの弦楽四重奏曲の全曲演奏会シリーズを開始する。 「そもそものきっかけは2018年に都民芸術フェスティバルの企画のひとつとして、私たち姉妹(妹は漆原朝子)のヴァイオリン、そこにより若い世代の演奏家を加えてクァルテットを組んで演奏しないかという依頼があったことでした。クァルテットを組む以上は、その演奏をよく知っている演奏家でないと難しい。そこで、以前からの知り合いで、木曽音楽祭でも何度か一緒に演奏をした経験のある大島亮さんと辻本玲さんを誘いました」と漆原啓子は語る。 18年はちょうどドビュッシー没後100年の記念イヤーだったため、ハイドン、シューベルト、ドビュッシーというプログラムで演奏会を行った。そこから常設の弦楽四重奏団としてベートーヴェン全曲演奏会を行うという方向へ向かった。この11月18日に第1回をスタートさせ、5年間10回のコンサートで、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲を演奏する(すべてHakuju Hall)。初回はベートーヴェンの第2番「挨拶」と第9番「ラズモフスキー第3番」、そしてラヴェルを取り上げる。 それぞれにベートーヴェンについて聞いた。漆原朝子(ヴァイオリン)はソリストとしての活躍が長く、クァルテットは初体験。「経験豊富なみなさんに色々教えていただきながら、必死に後を付いて行っているという感じですが、様々な苦悩を経て、精神的に浄化されたベートーヴェンの後期の世界は弦楽四重奏でしか体験できないと思います」と期待を語る。辻本玲(チェロ)は、「寄せ集めではなく常設のクァルテットで取り組みたかったベートーヴェン。難解だと言われますが、その音楽の渦の中に入って体験してみたいと思って参加しました。飾り気のないベートーヴェンの音楽に向き合いたい」と話す。大島亮(ヴィオラ)は、「無駄を削ぎ落としたシンプルな、でも奥深い世界があると思います。全曲やってみて、自分が何を感じるかが楽しみですし、やっていく過程で4人の音楽も変わっていくでしょう」と今後に期待を寄せる。漆原啓子は「年齢を経るに従って、自分の中のベートーヴェン像が変化してきたと思います。特に後期作品の中には神聖さと人間的な面白さが同居しているように感じます。それを表現してみたい」と語る。 当シリーズ始動にあたり、ドビュッシーとラヴェルの録音もリリースする。それぞれの演奏経験をベースにした豊かな音楽表現、そして多彩な音作りに加えて、個々の楽器の自己主張もあり、活き活きとした会話が展開される意欲的な録音に仕上がっている。新しいクァルテットの門出に注目しよう。東京オペラシティ B→C 伊藤美はるか香(ヴィオラ)邦人作品の紹介に情熱を傾ける開拓者文:林 昌英 現代の音楽や日本人作品の演奏に情熱を注ぐといっても、ヴィオリストの伊藤美香ほど徹底している奏者は稀少だろう。ヴィオラの楽曲はもちろんのこと、日本の知られざる作品を幅広く取り上げる「オーケストラ・トリプティーク」の団長を務めるなど、ソロ作品から大曲まで、あらゆる日本の作品の紹介に尽力している。 その伊藤が満を持して東京オペラシティのB→Cに登場。やはりC(コンテンポラリー)の選曲が際立つが、いずれも面白く聴ける作品ばかり。11/12(火)19:00 東京オペラシティ リサイタルホール問 東京オペラシティチケットセンター  03-5353-9999https://www.operacity.jp/J.S.バッハと、マルティヌーの明るく美しいソナタの他は、すべて邦人作品。直接交流があった鈴木行一の遺作「響唱の森」、眞鍋理一郎の「長安早春賦」のほか、伊藤の卓越した演奏に触発されて彼女のために書かれた西村朗の「キメラ」は注目。最後は矢代秋雄の若かりし日の隠れた名作ソナタを。 共演は作曲家にしてピアノの名手、新垣隆。創造の現場を誰よりも知る新垣と共に、伊藤の名技と作品への深い思いが、「隠れた名品」の真価を明らかにしていく。ひばり弦楽四重奏団 ~ベートーヴェン全曲演奏会 vol.1~11/18(月)19:00 Hakuju Hall問 アーツ・フロンティアーズ03-3971-1838他公演 11/11(月)宗次ホール(052-265-1718)CD『ドビュッシー&ラヴェル:弦楽四重奏曲』日本アコースティックレコーズNARD-5070 ¥2800+税11/21(木)発売左より:漆原朝子、辻本 玲、大島 亮、漆原啓子 ©Ami Hirabayashi

元のページ  ../index.html#83

このブックを見る