75オペラ夏の祭典2019-20 Japan↔Tokyo↔World 《ニュルンベルクのマイスタージンガー》大野和士とドイツの名演出家が作り上げるワーグナーの世界文:寺倉正太郎2020.6/14(日)14:00、6/17(水)12:00 東京文化会館 11/9 (土)発売問 東京文化会館チケットサービス03-5685-0650 https://opera-festival.com/※新国立劇場、兵庫県立芸術文化センターの各公演情報は上記ウェブサイトでご確認ください。 作家・村上春樹がドイツの週刊新聞「ディー・ツァイト」の招きでバイロイト音楽祭を訪れ、ティーレマン指揮《ローエングリン》とジョルダン指揮《ニュルンベルクのマイスタージンガー》を観劇したという。そのレポートは今年の『文藝春秋』10月号にも掲載され、村上が《マイスタージンガー》の“舞台装置”となったヴァーンフリート荘にあるピアノの上に乗っかった写真が誌面を飾り話題を呼んだ。このバイロイトのコスキー演出をはじめ、最近のワーグナー上演では、メタシアター的構造の演出が多くみられるが、今年4月、ザルツブルク・イースター音楽祭で初演されたイェンス=ダニエル・ヘルツォーク演出の同作はドレスデンのゼンパーオーパー(ザクセン州立歌劇場)の“舞台裏”をコンセプトとしたユニークなものだった。ヘルツォークの解釈は、踏み出しすぎない“ほどの良さ”が音楽祭の観客に好評を得たようだ。このヘルツォークの演出が日本にやってくる。 今回の《マイスタージンガー》はイースター音楽祭とザクセン州立歌劇場、東京文化会館および新国立劇場の共同制作。2020年6月の東京文化会館での東京初演は大野和士がピットに入る。オーケストラは東京都交響楽団。キャストは、新国立劇場にたびたび客演しているトーマス・ヨハネス・マイヤーがザックス、ザルツブルクでも同役を演じたアドリアン・エレートがベックメッサー、トミスラフ・ムツェックがヴァルター、林正子がエーファ。かつてサヴァリッシュに学び、各地の歌劇場の要職を歴任した大野が、オペラ指揮者としての経験と能力を最大限に発揮するであろう上演。ヘルツォークと大野のコラボやいかに? ワグネリアンのみならず見逃せない舞台になりそうだ。左より:大野和士/イェンス=ダニエル・ヘルツォーク/トーマス・ヨハネス・マイヤー/アドリアン・エレート/トミスラフ・ムツェック/林 正子 ©anju藤沢市民オペラ 2018-2020シーズン 《湖上の美人》(演奏会形式)ベルカントの饗宴! ロッシーニの傑作を日本初演文:岸 純信(オペラ研究家)12/1(日)14:00 藤沢市民会館問 藤沢市みらい創造財団 芸術文化事業課0466-28-1135 https://f-mirai.jp/arts/ 角笛を模すホルンの音と、仕事に向かう羊飼いたちの声が響きあう夜明け。やがて、霧の中、小舟で湖を渡る美女のしっとりした歌声が聴こえてくると、北の山国の爽やかな涼気がステージをさらっと吹き抜けるよう。まさしく「空気を音で描写する」大作曲家ならではの雄弁な音運びだろう。 ロッシーニの《湖上の美人》は、1819年にナポリで初演された2幕立てのオペラ。原作は文豪スコットの有名な叙情詩であり、スコットランド国王と高地人の対立を背景に、国王と民衆の首領ロドリーゴの二人から愛される娘エレナが、真に愛する若き武人マルコムと無事結ばれるまでを、国王の寛大な赦しを交えて描いている。エレナはまさしくソプラノのプリマドンナのための役だが、国王と首領はどちらも主役級のテノールが演じ、マルコムはコロラトゥーラに秀でたメゾソプラノが男装して担当。まさしく、「贅沢なキャスティングでこそ成功する」難曲なのである。 来る12月、演奏会形式でこの名作を日本初演するのが、市民参加型公演の雄たる藤沢市民オペラ。指揮は「我が国のロッシーニの第一人者」と称される園田隆一郎である。老匠ゼッダの愛弟子として、声の技を知り尽くす若きマエストロが、森谷真理(エレナ)、山本康寛(国王ウベルト)、小堀勇介(ロドリーゴ)といった新世代の名手たちが超高音を競い合う第2幕の三重唱をどこまでスリリングに聴かせてくれるか、今から本番が楽しみでしょうがない。左より:園田隆一郎 ©Fabio Parenzan/森谷真理 ©武藤 章/中島郁子/山本康寛/小堀勇介/妻屋秀和
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