eぶらあぼ 2019.11月号
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72左:中井恒仁 右:武田美和子 ©Toshiaki Yamada中井恒のぶひと仁 & 武田美和子(ピアノデュオ)リスト編の「第九」で2台ピアノの奥深さを味わってほしい取材・文:長谷川京介Interview 世界を舞台に活躍する中井恒仁&武田美和子ピアノデュオが今年結成20周年を迎えた。リスト編曲によるベートーヴェン「第九」2台ピアノ版のCDを8月に発売、11月21日に東京文化会館小ホールで発売記念コンサートを開催する。「第九」のほか、加藤知子、佐々木歩(以上ヴァイオリン)、佐々木亮(ヴィオラ)、長谷川陽子(チェロ)、吉田秀(コントラバス)、神田寛明(フルート)、亀井良信(クラリネット)、小島光、腰野真那(以上打楽器)という錚々たるメンバーをゲストに迎え、サン=サーンスの「動物の謝肉祭」も披露する。 まず、節目の年に「第九」を選んだ理由を尋ねた。 中井「リストの編曲が原曲に忠実ですばらしく、ピアノならではのシャープさと細やかな動きまで聞こえてくる良さがあります。この最高峰の曲を20周年でぜひ演奏したいと思いました」 人間の声をピアノでどう弾くのかについては、以下のように語る。 武田「ソリストの歌の内容や歌い方を、ピアノで再現する感覚をもって弾きます。音がすぐ減衰するピアノで、こういうタッチだったら音が伸びて聞こえるのではないかと常に意識します」 中井「リストの楽譜には、歌詞がつけられていて、ピアノのファーストかセカンドのどちらを歌として聴いてほしいか、わかるようになっています」 巨大なオーケストラに合唱が加わる作品を、2台ピアノでいかにして表現するのだろうか。 中井「打楽器的なピアノで大きな音を出すと混ざってしまうので、バランスを考えて波のような響きをつくります。オーケストラのように弦楽器が前から、木管がその後ろから、奥から合唱が聞こえてくるような響きの空間を工夫しています」 中井・武田「迫力だけではなく、静けさも大事にしたい。第1楽章の悩み、第2楽章の葛藤、第3楽章の神への祈りを経て、最後に人間の賛歌で終わるというストーリーを伝えられたらうれしいです」 今回のコンサートでは、演奏機会の少ないサン=サーンス「動物の謝肉祭」オリジナル室内楽版も演奏される。 中井・武田「尊敬できる方々とご一緒できることが楽しみです。最初はお祭り的に明るく始まり、後半が緻密な『第九』。2台ピアノの楽しさと深みの両方を味わっていただけると思います」 この先の二人の目標は「掛け合いがあり、協力し合うピアノデュオの素晴らしさをずっと追求したい。一緒に弾くだけではなく、それぞれがソロも極め、両方を大事にしていきたいです」とのこと。 「11月に中国で講座とリサイタルがあります。来年はドイツに行きます。ベートーヴェン生誕250年なので、現地でも『第九』を演奏できたらうれしいですね」東京2020応援プログラム日本の響き、世界の調べ 第4回 さまざまな声、さまざまな歌世界の民俗文化に根ざす“声”の饗宴文:宮本 明 「声」に関心のある方なら、じつに知的好奇心…いや本能を揺さぶられそう。「さまざまな声、さまざまな歌」は、モンゴル、スペイン、日本の、民俗文化に根ざした歌をそれぞれの本場の名手たちが聴かせる公演。倍音唱法のホーミーと、日本の追分節にも似たメリスマ装飾が特徴的な民謡のオルティン・ドーは、モンゴルの歌文化の両横綱。フラメンコというとダンスやギターを想像しがちだが、じつはカンテ(歌)こそがフラメンコの真髄といってもいい。民謡歌手・小杉真貴子は昭和41年11/9(土)14:00 文京シビックホール(小)問 シビックチケット03-5803-1111https://www.b-academy.jp/hall/レコード・デビューの民謡界を代表するベテラン歌手。文字を持たなかったアイヌの人々の文化は音楽にあふれている。リムセやウポポ、そして口承叙事詩ユーカラなど豊かな歌の形態が受け継がれている。日々の生活の中で生まれた世界中の民衆の歌には、国や時代を超えた、人びとの生命のエネルギーがみなぎっている。鑑賞でなく、生身の人が発した声を、同じ生きた人が受け止めることの喜びを感じに、ぜひ!左より:ガンホヤグ・バトツェツェグ(オルティン・ドー)/小杉真貴子/マヌエル・デ・ラ・マレーナ(カンテ・フラメンコ)中井恒仁 & 武田美和子 ピアノデュオリサイタル11/21(木)19:00 東京文化会館(小)問 プロアルテムジケ03-3943-6677https://nakai-takeda.com/CD『An die Freude ~歓喜に寄せて~ ベートーヴェン:交響曲第9番(リストによる2台ピアノ版)』T&KエンタテインメントQACK-30016 ¥3000+税

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