63川瀬賢太郎(指揮) 神奈川フィルハーモニー管弦楽団絶好調のコンビが放つ“衝撃的作品”と王道の名曲文:林 昌英定期演奏会 みなとみらいシリーズ 第354回12/6(金)19:00、12/7(土)14:00 横浜みなとみらいホール問 神奈川フィル・チケットサービス045-226-5107 https://www.kanaphil.or.jp/ 熱気に満ちた演奏と選曲の面白さで好評を重ねている、常任指揮者の川瀬賢太郎と神奈川フィルハーモニー管弦楽団のコンビ。中でも12月の定期演奏会は、彼らの面目躍如たる考え抜かれたプログラムで話題を集めている。 最大の注目は、20世紀ドイツのベルント・アロイス・ツィンマーマンの「ユビュ王の晩餐のための音楽」だろう。ルネサンスから自作まで、数世紀に及ぶ多数の作品を徹底的にコラージュして作り上げた傑作にして怪作。何度もニヤリとすること間違いないが、抱腹絶倒とはいかないようなメッセージや苦みも感じられ、特にシュトックハウゼン作品と、ある有名作2曲の旋律で作られた終曲は痛烈。川瀬の作りあげる強烈な音響でこそ体感したい衝撃的作品だ。 もうひとつの注目は、ムソルグスキー「展覧会の絵」をレオポルド・ストコフスキー編曲版で聴けること。近年演奏機会が少しずつ増えているのがこのストコフスキー版で、著名なラヴェル版とは全く違うアプローチから、この名曲の新たな魅力を発見できるはず。 コンサート冒頭は、ワーグナー《ニュルンベルクのマイスタージンガー》第一幕への前奏曲。唯一の“オリジナル作品”で、王道ともいえる輝かしいオーケストラの響きを堪能できる。ただし「ユビュ王」では、この前奏曲と「展覧会の絵」の一節もそれぞれ引用されていて、コンサート全体を通して聴衆に与える歪んだインパクトはいかばかりか。川瀬と神奈川フィルの快演(怪演?)で聴けるのが楽しみでならない。川瀬賢太郎 ©Yoshinori Kurosawa舘野 泉(ピアノ) バースデー・コンサート 2019年を重ねる喜び、そしてその先にある美しい音楽文:飯田有抄11/12(火)13:30 東京オペラシティ コンサートホール問 ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212 https://www.japanarts.co.jp/ この秋83歳となる舘野泉が「バースデー・コンサート 2019」と銘打って、誕生日2日後の11月12日に公演を行う。2019年は、日本フィンランド国交100周年の親善大使として両国5都市での記念コンサートに出演するなど、ますます充実した活動を続ける舘野。国内外の作曲家から彼に捧げられた「左手のピアニスト」のための作品はすでに100曲に及ぶ。02年の脳溢血で右半身不随になって以来、舘野がこれまで大切に、自然に、真摯に向き合い築き上げてきた音楽の世界が、このバースデー・コンサートでも柔らかに咲きそろう。 この日は2作品が世界初演される。一つはフィンランドの巨匠カレヴィ・アホによるピアノ五重奏曲「MYSTERIUM」で、息子のヴァイオリニスト、ヤンネ舘野と共演する。もう一つは、これまでも舘野からの委嘱作の数々を世に送り出してきたアルゼンチン出身の作曲家パブロ・エスカンデの「アヴェ・フェニックス“紅の風”」。永遠の象徴である火の鳥の世界を、金管アンサンブルと打楽器との共演で奏でる。 後半は吉松隆の「KENJI…宮澤賢治によせる」だ。吉松が選んだ8篇の宮澤賢治の詩の朗読、ピアノによって描き出される深く優しい世界。舘野自身、涙無くしては弾けないというこの感動作は、女優・草笛光子の語りとともに15年より全国各地で上演されてきた。この夜再び、聴き手を銀河の遥か彼方へといざなってくれることだろう。©武藤 章
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