eぶらあぼ 2019.11月号
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60ジョナサン・ノット(指揮) 東京交響楽団マエストロお得意のリゲティの世界そして、ジュピター!文:飯尾洋一東京オペラシティシリーズ 第112回 11/23(土・祝)14:00 東京オペラシティ コンサートホール問 TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511 http://tokyosymphony.jp/ 毎回のプログラムにこれほどワクワクさせられるコンビはほかにない。絶好調のジョナサン・ノットと東京交響楽団が11月の東京オペラシティシリーズで披露するのは、リゲティとリヒャルト・シュトラウス、そしてモーツァルトを組み合わせたプログラムだ。 ノットにとってリゲティは重要なレパートリー。生前の作曲者と知遇を得て、ベルリン・フィルとも録音を残し、東響でもたびたび主要作品をとりあげている。今回演奏されるのは「管弦楽のためのメロディーエン」。「メロディーエン」というタイトルとはうらはらに、長く引き伸ばされた和音がテクスチャーを作り出し、明快なメロディーは見えにくいのだが、その響きには美しい調和が保たれ、抒情性にあふれている。ノットによればリゲティの音楽は「複雑そうで実は明快」。 ノットはリゲティの音楽に好んでリヒャルト・シュトラウスの作品を組み合わせる。今回は晩年の傑作、オーボエ協奏曲。ソリストは東響首席奏者の荒絵理子が務める。こちらのほうが正真正銘のメロディーの音楽だろう。第1楽章冒頭のオーボエ・ソロを一瞬耳にしただけで、胸がいっぱいになるという人も少なくないのでは。 そして最後に演奏されるのが、モーツァルトの交響曲第41番「ジュピター」。完璧な調和へと到達する名曲だが、ノットと東響は決して予定調和に終わらないヴィヴィッドな音楽を聴かせてくれるはずだ。砂川涼子 ソプラノ・リサイタル深まりをみせる表現力と意欲的な選曲文:岸 純信(オペラ研究家)12/5(木)19:00 紀尾井ホール問 AMATI 03-3560-3010 http://amati-tokyo.com/ 初々しさは変わらないのに、レパートリーはどんどん広がるソプラノ、砂川涼子。藤原歌劇団のプリマドンナとして、日本中で爽やかな歌声を披露し続ける彼女は、筆者が常に注目する歌手の一人である。 砂川の舞台は毎回が「密かな驚き」に満ちている。キャリアのスタート時は、きりっとした響きで処女性を表現するプッチーニの娘役で人気を得たのに、その個性をそのまま保ちながら、今では声を操るロッシーニやバロック・オペラに向かうという、オペラ界の常識とは正反対のコースを歩んでいるのだから。この12月のリサイタルも、まさしく、彼女の並外れた能力を実証するものになるだろう。 声を知る第一人者たる指揮者、園田隆一郎をピアノ伴奏に迎え、砂川が歌い上げるのは、まずはヴィヴァルディの耽美的な二つのアリア。次に、生誕100年の加藤周一の詩による〈さくら横ちょう〉の競作2曲 ―中田喜直と別宮貞雄― とロッシーニのコミカルな歌曲集。続いてコロラトゥーラの技を聴かせるグノー《ファウスト》の〈宝石の歌〉、プッチーニのオペラから乙女のひたむきな心を歌い上げる二つのソロなど、曲の一つひとつが、可憐でも一本芯の通った響きを、異なる味わいで届けるための「声の色見本帳」になっているのである。 意欲的な選曲を打ち出す歌手は多いが、それで成功する人はごく少ない。弱音を吐かない砂川の、勁い心根が育んできた「歌の大樹」の在り様を、ぜひとも体感してみて欲しい。©Yoshinobu Fukaya荒 絵理子ジョナサン・ノット ©N.Ikegami

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