eぶらあぼ 2019.11月号
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58マレク・ヤノフスキ(指揮) ケルン放送交響楽団ベートーヴェンへの刺激的なアプローチに期待文:江藤光紀11/21(木)14:00 東京オペラシティ コンサートホール11/26(火)19:00 サントリーホール問 ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212 https://www.japanarts.co.jp/※日本ツアーの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。 2020年のベートーヴェン・イヤーを前に、ドイツから一足早く使徒がやってくる。マレク・ヤノフスキとケルン放送響だ。 アンサンブルを精緻に鍛え上げ、引き締まった純度の高いサウンドを実現するヤノフスキの実力については、多言は要すまい。今や世界的な名声を博する長老である。ポーランド生まれのこの巨匠、実はドイツの古都ケルンやその近郊で教育を受けている。ケルン放送響との付き合いも長く、今年2月にはマエストロの80歳を祝って、両者が近隣都市を巡る記念ツアーを敢行したというほどの仲なのだ。ケルン放送響も職人気質の心地よいアンサンブルを身上とするオーケストラ。かつて若杉弘が首席指揮者を務め、また宮本文昭をはじめ、日本の著名演奏家が多数在籍してきた(そして、現在も)ことでも知られ、とりわけ私たち日本人にとっても相性の良いオケなのだ。 今回の日本ツアーでは、プログラムの大半をベートーヴェンが占めている。ヤノフスキは現場叩き上げタイプのマエストロだが、楽聖へのアプローチもなかなか刺激的だ。奇を衒うところは一つもないのだが、アレグロはスピーディーで破壊力があり、ゆったりとした楽章でも、旋律をたるませることなく音楽の枠をしっかりと示す。筋の通った職人芸だ。 オペラシティ公演は「田園」と7番を組み合わせた骨太のプログラムを聴かせる。一方、サントリーホールでは「英雄」と「皇帝」。ドイツ国内の80歳記念ツアーに同道したチョ・ソンジンとの共演にも注目だ。マレク・ヤノフスキ ©Joern Neumann清水和音(ピアノ) “魅惑のラフマニノフ”抒情と男性的なピアニズムを堪能文:高坂はる香11/3(日・祝)14:00 東京芸術劇場 コンサートホール問 サンライズプロモーション東京0570-00-3337 https://sunrisetokyo.com/ スケールの大きさと高い演奏技術を兼ね備えた清水和音のピアノを存分に味わえる、オール・ラフマニノフ・プログラムによるコンサートが行われる。共演は東京フィルハーモニー交響楽団、同楽団のレジデント・コンダクターであり、ピアニストとしての実力も高い渡邊一正。  公演は、ラフマニノフが20歳の若さで書いた幻想曲「岩」で幕をあける。続けて演奏されるのは、さらに若き日に音楽院の卒業試験のために書かれ、作品番号1がつけられているピアノ協奏曲第1番。作曲家として注目されるきっかけとなったこの作品は、2番、3番に比べると演奏機会は少ないが、ラフマニノフらしい、エネルギッシュで輝かしいピアノ音楽の魅力を味わうことができる。 そして、甘美で哀愁に満ちた音楽が流れる名曲中の名曲、ピアノ協奏曲第2番。美しいピアニッシモから力強く重い音まで、その卓越した技術で現代ピアノの表現をすみずみまで引き出す清水が、ピアニスティックな魅力溢れる作品で起伏に富んだドラマを描いてくれることだろう。 清水和音の演奏会では、聴き慣れた作品からも、いつも新しい発見を受け取ることができる。今回はオーケストラとの掛け合いの中で、どんなふうにロシア音楽の雄壮な世界を再現してくれるだろうか。持ち前の力強く男性的なピアノの表現をラフマニノフの音楽で堪能する、またとない機会となりそうだ。©Mana Miki

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