eぶらあぼ 2019.11月号
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55ビヨンド・ザ・ボーダー音楽祭2019 ~超える・交わる・聴こえてくる~11/10(日)14:00 横浜みなとみらいホール(小)問 横浜みなとみらいホールチケットセンター045-682-2000 https://mmh.yafjp.org/mmh/鈴木理恵子(ヴァイオリン/音楽監督)ベートーヴェンの音楽とアジアのアートシーンをテーマに取材・文:宮本 明Interview 考えるヴァイオリ二ストだ。鈴木理恵子が音楽監督を務める「ビヨンド・ザ・ボーダー音楽祭」は、時代、地域、文化、ジャンル、さまざまなボーダーを超える。2008年にスタートして今年で6回目。横浜みなとみらいホール小ホールでの「EXTENDED スペシャル・コンサート」は3部構成・約3時間という大規模な内容だ。 「これまでアジアや北欧をテーマにしてきたのですが、来年はベートーヴェン・イヤー。初めて、どっぷりとドイツの名曲中心のプログラムにしました」 1部&2部では夫・若林顕のピアノとともに、ベートーヴェン「クロイツェル」やバッハ「シャコンヌ」、ブラームス「幻想曲」(ピアノ・ソロ)などが演奏されるが、そこに、声を中心とするマルチ・パフォーマーである巻上公一も加わる。 「基本的にはクラシック作品をじっくり味わっていただきますが、いくつかの曲で巻上さんが(歌曲由来の作品の詞を)語り、また、花架拳という中国武術の 『型』 で動きを加えてくれます」 3部は笙の石川高も加わって伝統音楽と現代音楽。雅楽やトゥバ共和国の倍音唱法ホーメイから、西村朗、池辺晋一郎、ジャック・ボディ(ニュージーランド)、藤枝守まで、アジアやアフリカ、ヨーロッパなど、広く世界に素材を求めたバラエティ豊かな作品が並ぶ。 「現代曲といっても、ワールドワイドな、きっと誰が聴いても楽しめる曲ばかりです」 アートともコラボ。ステージの背後には画家・松原賢の作品が掲げられ、ホール内を幻想的に彩る。ビヨンド(=超える)の意識は、キャリアの初めからあった。 「留学して海外から日本を見つめたとき、まずは日本人、アジア人としての自分のルーツを知らなければ、西洋音楽をやる意味がないのではないかと感じました。アジアのわらべうたや世界の民俗音楽を勉強して、それが楽しくて、自分の活動としてできるかなと思い始めたのが1995年頃です」 それは箏の西陽子、ピアノの中川俊郎との異色のアンサンブル「トリオ・デュ・モンド」(99~2000年)や、高橋悠治も参加した02年のCD『フロム・ジ・オリエント』 となり、そしてこの音楽祭に結実した。もちろん軸足はあくまでクラシック。そこから拡がっていく活動だと考えている。たとえば若林とのデュオにチェロが入ればピアノ三重奏に拡がるのと似て、笙やホーメイと一緒にやれば、自然にアジアに拡がる。ただし、どちらかが寄せるのではなく、互いが「あいだ」を探して深い部分で交わらなければならない。 「言葉でなく音楽で、民族も争いも超えられたらいい」。図らずもそれはいま、切実な願いだ。エマニュエル・パユ SOLO Vol.2オール無伴奏一本勝負、ふたたび文:寺西 肇 「時、大陸、様式を超えた、聴き手の皆さんとの旅」。名手ひしめくフルート界にあって、今もなお人気・実力ともに「ナンバーワン」のスーパースター、エマニュエル・パユ。たった一人、1時間で臨むオール無伴奏リサイタル「SOLO」を、彼はこう表現する。 今回の第2弾では、パユが「ソロ作品の港」と位置付ける、バロックの巨匠テレマンによる「12の幻想曲」(1727年出版)から6曲を大枠に。そこに、世界で初めてプラチナ製フルートが作られた際に委嘱された、ヴァレーズ「密度12/2(月)19:00 東京オペラシティ コンサートホール問 東京オペラシティチケットセンター  03-5353-9999https://www.operacity.jp/©Fabien Monthubert21.5」をはじめ、ベリオ「セクエンツァⅠ」、オネゲル「牝山羊の踊り」など5つの20世紀の佳品を挟み込む。 「時を通じての人類の進化、音楽文明やフルート製造の発展、ペースやスピードの感じ方の変化に何が起こってきたのかを、私たちはより良く見極めることができる」と語るパユ。しなやかな音楽性と変幻自在の多彩な音色、圧倒的なテクニックと気迫で臨む“真剣勝負”は、「なぜ演奏するのか」「なぜ聴くのか」という根源的な問題へ、ひとつの答えをもたらしてくれるに違いない。©Wataru Nishida

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