eぶらあぼ 2019.11月号
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53アレクサンダー・リープライヒ(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団ゆかりの作曲家の傑作に渾身で挑む文:柴田克彦第716回 東京定期演奏会12/6(金)19:00、12/7(土)14:00 サントリーホール問 日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 https://www.japanphil.or.jp/ 日本フィルの12月東京定期を振るのは、アレクサンダー・リープライヒ。今年3月に続いての登場だ。1968年ドイツ生まれの彼は、アバドとギーレンの薫陶を受け、ミュンヘン室内管の芸術監督を長年務めた後、ポーランド国立放送響とプラハ放送響の首席指揮者兼芸術監督、およびR.シュトラウス音楽祭の芸術監督を務めている。客演もコンセルトヘボウ管、バイエルン放送響、ミュンヘン・フィルや、N響、読響ほか多数。3月の日本フィルとの初共演でも、エネルギッシュかつ引き締まった演奏で大好評を博している。 彼は今回、モーツァルト《ドン・ジョヴァンニ》序曲、ルトスワフスキ「オーケストラのための書」、R.シュトラウス「英雄の生涯」という魅力的なプロで臨む。中でも前回に続くルトスワフスキは、その母国ポーランドの楽団のシェフを務めるリープライヒが力を注ぐ作曲家。「オーケストラのための書」は、トーンクラスター等を用いたシリアスかつ静謐な作品で、独特の響きが不思議な感動を誘う。ここはCD録音も行っているリープライヒの渾身のタクトに期待。R.シュトラウスは、サヴァリッシュが創設した同音楽祭の第3代芸術監督を務める彼の自家薬籠中の作曲家だけに、アプローチが興味をそそる。壮麗でドラマティックな「英雄の生涯」ならば曲も文句なし。さらにはザルツブルクのモーツァルテウムで学んだ彼のモーツァルト演奏も見逃せない。 自信を持つ作曲家の大編成作品を主軸にしたプロは、前回にも増して勝負気配濃厚。意外に稀少な日本フィルとドイツ上昇株の顔合わせに、ぜひ注目したい。アレクサンダー・リープライヒ ©Sammy Hart角田鋼亮(指揮) 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団「絵画」をキーワードとする入念のロシア・プロ文:林 昌英第59回 ティアラこうとう定期演奏会11/30(土)15:00 ティアラこうとう問 東京シティ・フィル チケットサービス03-5624-4002 https://www.cityphil.jp/ 豊かな音響とともに、舞台の出演者との一体感も味わえる、ティアラこうとう大ホール。東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団はこの会場で「ティアラこうとう定期演奏会」を開催、お手頃な価格で名作を楽しめる好シリーズとして親しまれている。 11月末には、今年からセントラル愛知交響楽団の常任指揮者を務めるなど、いま最も上り調子な指揮者のひとり、角田鋼亮が登場。ムソルグスキー(ラヴェル編曲)の組曲「展覧会の絵」をメインに、マスネの組曲第4番「絵のような風景」とプロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第1番を組み合わせた、気の利いたプログラムを聴かせてくれる。「絵」をキーワードとする組曲2作を大枠にするアイディアはなかなか粋。マスネの組曲は、最初は穏やかな淡色で始まりながら、最後の第4曲は作曲者一流のカラフルで華麗なオーケストレーションが発揮される楽しい佳品で、会場が盛り上がること間違いない。もちろん、華麗さにかけては随一の名曲「展覧会の絵」では、角田の好調ぶりがよくわかるような鮮やかな快演が大いに期待できる。 この2曲の間で強めのスパイスとなるのがプロコフィエフ。ソリストは辻彩奈。高い技巧はもちろんのこと、すでに独自の表現を勝ち得ている俊才で、世界を舞台に活躍する若き名手だ。不思議な神秘性と超絶技巧に満ちた協奏曲で、彼女の世界基準のパフォーマンスを堪能したい。秋の終わりに、充実のオーケストラと気鋭のアーティストたちによる名曲集を味わう週末を。辻 彩奈 ©Warner Classics角田鋼亮 ©Hikaru Hoshi

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