eぶらあぼ 2019.11月号
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45アンリ・バルダ ピアノ・リサイタル円熟の巨匠が満を持して取り組むオール・ショパン・プロ文:片桐卓也12/3(火)19:00 東京文化会館問 コンサートイマジン03-3235-3777 http://www.concert.co.jp/ ピアノという楽器を使って、ここまで深い情感を描き出せるピアニストは他にいるのだろうか? 以前、アンリ・バルダの実演を聴いた時にそんなことを思った。どの作曲家のどの作品でも、そこにあるべき音楽が浮かび上がってくる。恣意的ではなく、あくまでも自然な姿で語りかけてくる音楽。テクニックを見せびらかすことなど微塵もないが、しかし、すべてが的確に表現されるピアニズム。それは現代において稀有なものだ。そのアンリ・バルダが2017年以来、再び日本のステージに戻ってくる。 エジプトのカイロ生まれ。ホロヴィッツが最も恐れたライバルであったポーランドのイグナス・ティエガーマンに特別な指導を受けた。16歳でパリへ渡り、その後ジュリアード音楽院でも学んだ。パリ国立高等音楽院を経て、現在はエコール=ノルマル音楽院で教える。あまり公の場で演奏をしないことから、幻のピアニストと呼ばれていたこともあるが、日本では数度その演奏を披露してきた。特に08年、10年の紀尾井ホールでの演奏は多くの聴衆に感動を与えた。 今回の来日公演では得意とするショパンだけのプログラムを組んだ。4つの「即興曲」「バラード第1番」「ソナタ第2番」「ソナタ第3番」などが並ぶ。ピアニストにとっては「オール・ショパン」のプログラムこそチャレンジングなものだと思うが、あえて今、それを東京文化会館大ホールで披露する。ショパンの魂と触れ合う、そんな貴重な時間の流れるコンサートとなるだろう。©エー・アイ 撮影:檜山貴司トマーシュ・ネトピル(指揮) 読売日本交響楽団欧州でブレイク中の俊英が聴かせる自国の傑作シンフォニー文:柴辻純子第593回 定期演奏会 11/29(金)19:00 サントリーホール問 読響チケットセンター0570-00-4390 https://yomikyo.or.jp/ オペラとシンフォニーの両輪で活躍するチェコの指揮者トマーシュ・ネトピルが、読響定期に初登場する。現在、ドイツの名門エッセン歌劇場の音楽総監督を務め、ウィーン国立歌劇場やドレスデン国立歌劇場に客演、ベルリン・フィル等のオーケストラの指揮でも躍進するなど“チェコの次世代を担う指揮者”として注目の俊英である。 曲目は、モーツァルト《皇帝ティートの慈悲》序曲とスーク「アスラエル交響曲」のプラハで初演された2作品と、ハンガリー出身の現代作曲家リゲティのチェロ作品を組み合わせた勝負のプログラム。リゲティのチェロ協奏曲(1966)は、室内楽的な編成のオケと独奏チェロが1枚の織物を織り上げるような緻密なテクスチュアに超絶技巧が散りばめられた難曲。ソリストは、ブーレーズ指揮の「リゲティ協奏曲集」の録音に参加し、作曲家から直接指導を受けた、名手ジャン=ギアン・ケラス。その前にはケラスのアイディアでリゲティの「無伴奏チェロ・ソナタ」も。「モダンすぎる」と批判された若き日の作品だ。 後半は、20世紀チェコ音楽の土台を築いたスークの交響曲「アスラエル」(死を司る天使の名)。師のドヴォルザークの死を悼み、彼に捧げるために作曲中、妻のオティリエ(ドヴォルザークの娘)も心臓病で若くして亡くした。愛する二人を失ったスークの耐え難い悲しみが、全5楽章の交響曲に広がる。チェコの音楽家にとって大切なこの作品、ネトピルのタクトで、さらなる深い共感が生まれるだろう。ジャン=ギアン・ケラス ©Marco Borggreveトマーシュ・ネトピル

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