44左:萩原麻未 右:堤 剛 ©Yasuhisa Yoneda堤 剛(チェロ)& 萩原麻未(ピアノ)デュオとしての成熟度をさらに高めた二人が名曲に新たな地平を拓く取材・文:オヤマダアツシInterview 2017年5月、フランク、R.シュトラウス、三善晃の作品を収録したCDで共演し、各地でのコンサートで音楽を共有してきた堤剛&萩原麻未デュオ。チェロとピアノによる絶妙なバランスを成立させ、さまざまなレパートリー拡大に期待を抱かせた2人だが、この10月25日に2枚目となるCDがリリースされる。しかも収録曲は、2つの楽器にとって互いの音を主張しつつも“押し引き”の加減が必要であり、対話と融合が求められるラフマニノフのソナタ、そしてベートーヴェンのソナタ第4番だ。互いに新鮮な発見の多い共演 堤「萩原さんは自然な音楽の流れや、弦楽器の音を引き立ててくれる独特の美しい音色をお持ちで、しかも呼吸を感じ取れるピアニスト。室内楽に大切なものを備えていらっしゃいますから、私もこれまでにない演奏が生まれるような気がして、共演できることが楽しみな方です。ラフマニノフのソナタは、有名なピアノ協奏曲第2番と作品番号が隣り合わせなので、和声進行もピアノの難しさも共通しています。だからこそ萩原さんとの共演は新鮮な発見も多く、私にとっては至福の時間になるのです」 萩原「幼い頃から憧れていた堤先生とご一緒させていただけることになり、身が引き締まる思いとともに貴重なアンサンブル経験をさせていただいています。ベートーヴェンは、パリ音楽院在学中にイタマール・ゴラン先生のレッスンを数回受けていたのですが、ラフマニノフに本格的に取り組むのは今回が初めてです。ベートーヴェンは子どもの頃からソナタなど弾いてきましたが、数年前に三重協奏曲を演奏する機会があり、体中から生きるエネルギーが湧き、自分の細胞が生まれ変わるような感覚を経験し、『人々に希望を与える作曲家』ということを肌で感じました。そうした中で今回チェロ・ソナタを深めていくことができるのは本当に幸せです」 堤「第4番は後期の作品ですから音の数も少なく、一音の深みが際立っていますし、何度弾いても味わいがあります。すでに耳が聞こえなくなっている状況で、心の中でこんな充実した音楽が鳴っていたのかと思うと感動をおぼえますね。ベートーヴェンは初期・中期・後期にそれぞれソナタを残してくれましたから、チェリストにとってはありがたい作曲家なのです」 ソナタ5曲は20年の初夏、サントリーホールが開催する「チェンバーミュージック・ガーデン」において、2人が演奏する予定になっている。新作初演への飽くなき意欲 さて、今回のCDで同様に存在感を示しているのが、堤の委嘱によって書かれた酒井健治の新作だ。「レミニサンス(回想)/ポリモノフォニー」と題された作品は、J.S.バッハの「無伴奏チェロ組曲」第5番より深遠な「サラバンド」をモティーフにしており(この曲もCDのラスト、種明かしのように収録)、不思議な緊張感の中でチェロの可能性を問う。堤は「演奏が難しいだけ楽器の新しい世界が広がり、音色や間(ま)を追求することもできる作品」と絶賛。過去、多くの新作を委嘱・初演してきたが、その意気込みや使命感が不変であることを証明する一作だ。 萩原麻未というパートナーを得て、さらなる生命感を得た堤剛のチェロが、この一枚に凝縮されている。12/7(土)15:00 シンフォニア岩国 コンサートホール問 シンフォニア岩国0827-29-1600https://sinfonia-iwakuni.com/CD『ラフマニノフ:チェロ・ソナタ 他』マイスター・ミュージックMM-4067 ¥3000+税10/25(金)発売
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