eぶらあぼ 2019.11月号
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27アイスランド出身の“革命児”がこだわりぬいたプログラムで新風を吹き込む取材・文:伊熊よし子 世界中から熱い視線を浴び、いまや次世代を担うピアニストとして大きな注目を浴びているアイスランド出身のヴィキングル・オラフソンが、12月に待望のリサイタルを行う。プログラムはラモーとドビュッシーの作品、それにムソルグスキー「展覧会の絵」というこだわりの選曲。その意図を聞いてみると…。 「これらの作品は、2020年にリリース予定の新しいアルバムに収録されることになっているものです。今回は珍しい構成にしたいと考え、150年の時を隔てて生きた偉大なラモーとドビュッシーの対話を意図しています。20世紀初頭、ラモーの全集版が出版される際、ドビュッシーが校訂を手伝ったと言われているからです。ふたりはルールを破ることを得意としていましたので、私もラモーの組曲において楽章の順番を入れ替えたり、省略したりしています。ドビュッシーに関しても、遠くバロックにそのルーツを見出すことができる選曲を心がけています」 ムソルグスキー「展覧会の絵」に関しては、楽譜通りに弾くことをモットーとしている。 「この作品に関してはその説得力や力強さを大切にしているからです。私は昔からいろんな演奏家の音楽を聴くのが好きですが、『展覧会の絵』においてはスヴャトスラフ・リヒテルの1950年代のカーネギー・ホール・ライヴが鮮烈で強烈な印象を受けました。あたかも各々の絵に命が吹き込まれているようです。もうひとり、ウィリアム・カペルの演奏もひとつずつの音に一種の電流のようなものが宿っています。私がジュリアード音楽院で師事したジェローム・ローウェンタールは、カペルが悲劇的な事故によって亡くなる前、彼と一緒に学んだ数少ない人間のひとりなんですよ」 ヴィキングルは国際コンクールの出身者ではない。2016年にドイツ・グラモフォンと専属契約を結び、『フィリップ・グラス:ピアノ・ワークス』で鮮烈なデビューを果たす。次いで『バッハ・カレイドスコープ』を世に送り出し、「ずば抜けた才能」と新聞・雑誌で称賛された。 「アイスランドではコンクールはありません。ジュリアード音楽院で学ぶようになり、すべてがコンクール中心であることに衝撃を受けました。在学中はレパートリーを探求することに時間をかけ、2008年に卒業してからはコンサートや創造的な仕事を通じて自分の音楽を手探りで見つけてきました。やがてアイスランドで自分のレーベルを立ち上げて録音活動を行い、音楽祭なども創設しました。その後、幸運なことにドイツ・グラモフォンと仕事をすることができるようになったのです」 ヴィキングルの演奏は初めて聴いた人に衝撃を与え、聴き慣れた作品でも新たな発見を促し、音楽を聴く真の喜びに目覚めさせる。彼は「革命児」と呼ばれるように、それぞれの作品に新風を吹き込み、洞察力の深さで勝負する。レパートリーはバロックから近現代まで幅広く、現代作品にも積極的に向き合う。 「今後はジョン・アダムズの新しいピアノ協奏曲第2番を、本人の指揮により欧米各地で演奏します。フィンランドの作曲家サウリ・ジノヴィエフの新しいピアノ協奏曲もフィンランドとスウェーデンの放送交響楽団とともに初演します。もちろん、2020年にはバッハからシューマンまで多岐にわたるコンチェルトも演奏する予定です。私は100パーセント自分が全力で取り組むことができ、責任をもつことができる作品しか演奏しません。というのは、自分が深く信じることができ、これまでなかった解釈を表現することができる音楽を選ぶという意味です。それがとても重要で、一つひとつの音に信念がこもっているか否かは、おのずと聴衆に伝わってしまうからです」 アイスランドでは家族に共通した「名字」がなく、彼の名前はヴィキングル、名字にあたるオラフソンは父がオーラヴルだからだという。「アイスランド特有の法則でしょうね。でも、家族のつながりはとても強いですよ」 アイスランドから世界の舞台へと飛翔した逸材、ぜひナマの演奏で新たな衝撃を。Prole情熱的な音楽性、爆発的な技巧、知的好奇心のすべてを兼ね備えた稀有なピアニスト。アイスランドに生まれ育ち、ジュリアード音楽院で学ぶ。ドイツ・グラモフォンと専属契約を結び、『フィリップ・グラス:ピアノ・ワークス』のリリースで鮮烈なデビューを果たす。2作目『バッハ・カレイドスコープ』は2019年BBCミュージック・マガジン・アワードの器楽賞及びアルバム・オブ・ザ・イヤー賞他を受賞。フランス放送フィル、フィルハーモニア管他多数の著名オーケストラ・指揮者と共演を重ねている。

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