eぶらあぼ 2019.10月号
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68ユーリ・テミルカーノフ(指揮) 読売日本交響楽団重いメッセージを孕む20世紀の傑作と古典派作品の愉悦文:林 昌英第592回 定期演奏会 10/9(水)19:00 サントリーホール問 読響チケットセンター0570-00-4390 https://yomikyo.or.jp/ ユーリ・テミルカーノフの指揮で、ショスタコーヴィチの交響曲第13番「バビ・ヤール」を聴ける。しかも、いま国内随一の迫力のサウンドを誇る、読売日本交響楽団の演奏で。今年度屈指の聴きものと言えるだろう。 タイトルは、第二次大戦中ナチスによってユダヤ人が虐殺された、旧ソヴィエト(現ウクライナ)の谷の名前。その悲劇と、戦後もソヴィエトに残っていた反ユダヤ主義の空気を告発する、気鋭の詩人エフトゥシェンコの詩にショスタコーヴィチは感銘を受け、1962年、他の詩も組み合わせて、バス独唱と男声合唱付き全5楽章の大作を作り上げた。表題の詩による第1楽章をはじめ、すべての楽章の詩に重いメッセージがあり、今こそ噛みしめたい箴言に満ちている。音楽と詩の最高の相乗効果が実現した20世紀の傑作である。 ソヴィエト出身のテミルカーノフは、2006年サンクトペテルブルク・フィルとの来日公演で本作を取り上げ、畏怖を覚えるほどの名演を実現している。本作ではスコアに忠実かつ強靭な音響でその精髄を聴かせてくれるはず。男声もすばらしい顔ぶれで、新国立劇場合唱団の深い響きに加え、テミルカーノフはもとよりクルレンツィスの信頼も厚いバス歌手ピョートル・ミグノフの声を聴けるのは嬉しい。 公演前半はハイドンの交響曲第94番「驚愕」。古典の愉悦を味わえる名品で、テミルカーノフがどんなハイドンを聴かせるのかも楽しみ。ハイドンからショスタコーヴィチに至る「交響曲の歴史」の変遷まで考えさせられる、意義深い公演となる。ユーリ・テミルカーノフ ©読響トリエステ・ヴェルディ歌劇場《椿姫》現代を代表するヴィオレッタ、レベカへの期待が高まる文:香原斗志11/2(土)、11/4(月・休)各日16:00 東京文化会館問 コンサート・ドアーズ03-3544-4577 http://www.concertdoors.com/※全国公演の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。 須賀敦子のエッセーでお馴染みの国境の港町トリエステには、ヴェルディの名を冠する名門歌劇場がある。実際、ヴェルディの二つのオペラ《イル・コルサーロ(海賊)》と《スティッフェーリオ》が、ここで初演されているのだ。もちろん、現在もヴェルディのオペラ上演に定評があるが、東京公演のキャスティングは、「事件」と言っても大げさでないほどすごい。《椿姫》のヒロインのヴィオレッタ役をマリナ・レベカが歌うのである。 彼女は約10年ぶりの来日で、以前もロッシーニのオペラやリサイタルで強い印象を残したが、いかんせんデビューから日が浅かった。この10年、声が成熟して練り上げられ、当初から群を抜いていた技巧にさらに磨きがかかり、いまや大歌手。最新のアリア集『SPIRITO』に収められた《ノルマ》以下のアリアの完成度も、他のソプラノを寄せつけない。特にヴィオレッタ役は、ウィーン国立歌劇場やパリ・オペラ座、今年はミラノ・スカラ座の年初の公演で歌い、再びスカラ座への出演が決まっている彼女の十八番。それが東京にいながらにして味わえるのだ。 脇を固めるのは、みずみずしい声と無類の音楽性でレベカと釣り合うラモン・ヴァルガスのアルフレードと、ボローニャ歌劇場公演《リゴレット》で名唱を聴かせたばかりのアルベルト・ガザーレのジェルモン。また、指揮のファブリツィオ・マリア・カルミナーティは作曲家の意図に忠実な緻密でダイナミックな指揮で知られ、声のことも熟知している。最高の《椿姫》にならない理由が見当たらない。ラモン・ヴァルガスアルベルト・ガザーレマリナ・レベカ ©Jānis Deinats

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