eぶらあぼ 2019.10月号
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64エリアフ・インバル(指揮) 東京都交響楽団鬼才が13年ぶりにタクトを執る「1905年」の凄み文:江藤光紀第890回 定期演奏会Aシリーズ 11/11(月)19:00 東京文化会館 問 都響ガイド0570-056-057 https://www.tmso.or.jp/ インバルが都響のプリンシパル・コンダクターを退き、桂冠指揮者となってから5年が過ぎたが、相変わらずの人気ぶりだ。インバルが振るとオケがぐっと締まり、磨きぬいた鋼のように硬質な輝きを発する。これがとりわけシンフォニックな大作に強い説得力を与えてきた。 さて、今回の来日、11月の定期Aシリーズでは、ロシアの革命をテーマにしたショスタコーヴィチの交響曲第11番「1905年」が取り上げられる。これはペテルブルクの宮殿に行進した民衆を軍が襲った、いわゆる“血の日曜日”事件を描いたもの。 第1楽章では朝もやに煙る宮殿のかなたから革命歌が響いてくる。第2楽章は事件の核心的な描写だ。圧政に苦しむ群衆の怒りが爆発した後、しばし不気味な静けさが戻ってくるが、鋭い銃砲を表すスネアドラムを合図に、鎮圧部隊が出現する。我先に逃げ出す民衆を軍が蹴散らし、あっという間に広場を制圧。死者を悼む第3楽章は重苦しく始まるが、勇壮で力強い賛歌へと発展し、フィナーレはそれを受けて労働者たちが立ち上がる。血まみれの広場を描いた本作に対し、前半は色欲に溺れた男女が地獄の業火に焼かれるチャイコフスキーの幻想曲「フランチェスカ・ダ・リミニ」が演奏される。凄まじいプロだ。 ショスタコーヴィチがこの作品を発表した1950年代後半、世界は動乱に満ちていたが、昨今も世界各地で政治情勢は緊迫度を増している。ちなみに同月の定期Cシリーズ(11/16)では十月革命を描いた交響曲12番「1917年」も取り上げられるが、こちらも併せてインバルの剛毅なタクトが生み出す民衆と政治のドラマに思いを馳せたい。エリアフ・インバル ©Rikimaru Hotta城への招待 ~吉田 誠、川久保賜紀、福間洸太朗 Special Guest 鈴木紗理奈~音楽と物語の相乗効果が引き出す未知の快楽文:飯尾洋一10/22(火・祝)17:00 Hakuju Hall問 Hakuju Hallチケットセンター03-5478-8700 https://www.hakujuhall.jp/他公演10/17(木)三井住友海上しらかわホール(東海テレビ放送052-954-1107) 国内外でソロ、室内楽と幅広く活躍する新時代のクラリネット奏者、吉田誠がHakuju Hallのために意欲的な公演をプロデュースする。ヴァイオリンの川久保賜紀、ピアノの福間洸太朗という強力な共演者を得て、実に興味深いプログラムが組まれた。 クラリネット、ヴァイオリン、ピアノというトリオで、なにを演奏するか。柱となるのはプーランクの「城への招待」だ。この作品はフランスの劇作家ジャン・アヌイの戯曲のために書かれた劇付随音楽。ミニチュア的な小曲の連続からなり、プーランクらしい軽快で洒脱な味わいがある。音楽だけでも楽しめるが、今回は新井鷗子の書き下ろし脚本を、女優・タレントの鈴木紗理奈が一人語りで朗読するのが大きな特徴。城で舞踏会を開く上流階級のマダム、対照的な性格を持つ双子の甥、甥の億万長者の婚約者、舞踏会に招かれた貧しいオペラ座のバレエ・ダンサーを軸に物語が進む。音楽と物語の相乗効果による味わい深いステージが実現しそうだ。 さらに、ストラヴィンスキーの組曲「兵士の物語」(三重奏版)、アイヴズの「ヴァイオリン、クラリネットとピアノのためのラルゴ」、バルトークの「コントラスツ」といったトリオも演奏される。クラリネット、ヴァイオリン、ピアノという組合せで切り取った20世紀前半の音楽シーンとでもいうべきか。名手ぞろいだけにエキサイティングな公演になることはまちがいない。川久保賜紀 ©Yuji Hori福間洸太朗©Marc Bouhiron鈴木紗理奈吉田 誠 ©RamAir.LLC

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