eぶらあぼ 2019.10月号
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62チョン・キョンファ ヴァイオリンリサイタル2019ベートーヴェンとバッハを経てブラームスのソナタ全3曲と向き合う文:伊熊よし子10/4(金)19:00 大阪/ザ・シンフォニーホール (エス・ピー・エース06-6204-0412)10/6(日)14:00 北海道/北広島市芸術文化ホール(011-372-7667)10/8(火)19:00 東京文化会館(都民劇場03-3572-4311)10/13(日)14:00 サントリーホール(サンライズプロモーション東京0570-00-3337)10/22(火・祝)14:00 福岡シンフォニーホール (エムアンドエム092-751-8257)※10/8公演のみバッハ:無伴奏ソナタ第1番とブラームス:第1番&第3番。ケヴィン・ケナーとの共演 韓国出身、現在はニューヨーク在住の「ヴァイオリン界のレジェンド」と称されるチョン・キョンファが、1990年のショパン国際ピアノ・コンクールで最高位を獲得したケヴィン・ケナーと組み、10月に来日公演を行う。当初のピアニストは韓国出身のソン・ミンスだったが、急きょ変更になり、何度かデュオを組んで来日しているケナーとの共演が実現した。曲目は「オール・ブラームス・プログラム」。ブラームスのヴァイオリン・ソナタ全3曲を演奏するという興味深い選曲だ。 チョン・キョンファとケヴィン・ケナーがコンビを組んだのは2011年から。彼のショパンに魅了されたキョンファが共演を希望したが、最初はなかなか両者の音楽が合わなかった。 「ケヴィンは特別な音をもっています。私は彼の弾くショパンの〈舟歌〉に魅了されたのですが、ふたりの音楽が一体となり、同じ“声”をもつまでには長い時間を要しました。ようやくベートーヴェンを演奏できるようになり、各地で演奏を行いました」 前回のベートーヴェン・プロのときにこう語っていたキョンファだったが、その後ブラームスへと歩みを進めたことになる。バッハの無伴奏に挑む チョン・キョンファは12歳で渡米し、ニューヨークのジュリアード音楽院で名教師として知られるイヴァン・ガラミアンに師事。その後、さまざまな名ヴァイオリニストから多くの教えを受け、19歳のときにレヴェントリット国際コンクールで優勝し、以来、世界の檜舞台で輝かしい活躍をする。しかし、05年に指の故障に見舞われ、5年間まったく演奏できない状況に陥った。復帰は11年12月。13年には15年ぶりの来日を果たし、絶賛された。 「演奏できない時期には若手演奏家の育成と支援を行いました。この間、私の救いとなったのはバッハの音楽です。いまは再びステージに立つことができ、演奏することだけに人生を賭けています。私は完璧に曲が自分のものにならないと演奏しませんが、近い将来バッハの無伴奏作品を弾きたいと思っています」 こう語っていたキョンファの『バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ』(ワーナークラシックス)の録音がリリースされたのは16年。彼女は若いころから身体全体で音楽を表現し、豹のように挑みかかるような壮絶な演奏をすることで知られ、情熱的で濃密で全身全霊を傾けた音楽を特徴としたが、いまや人間的で情感豊かな演奏へと変容し、深遠さが増している。 「バッハの無伴奏は私の人生の糧ともいうべき作品。ニューヨーク時代に14歳で弾き始めたのですが、本当に理解することが難しかった。特にフーガは大いなるチャレンジだったわね。全体の流れを大切に、ヴィブラートを抑制しながら弾く。各作品を完全に咀嚼し、音にしていく過程はとても困難でした。でも、長年にわたりずっと弾き続け勉強を続けてきたため、勇気を出していま演奏するべきだと自分に言い聞かせて全曲録音と演奏に挑戦したのです」  次いで18年の70歳記念には『フォーレ&フランク:ヴァイオリン・ソナタ集、フランス小品集』(ワーナークラシックス)をリリースし、心身の充実ぶりを披露している。様々な経験がブラームスに結実 今回は音響の良さを誇るサントリーホールに、キョンファとケナーのブラームスが響きわたる。二人は同じ“声”をもつまで過酷なまでの練習を自身に課してベートーヴェンのソナタへと近づいていった。その精神がブラームスで発揮される。深く内省的なデュオに期待したい。

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