eぶらあぼ 2019.10月号
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51新国立劇場 チャイコフスキー《エウゲニ・オネーギン》(新制作)新シーズン開幕にふさわしい心揺さぶるドラマ文:柴辻純子10/1(火)18:30、10/3(木)14:00、10/6(日)14:00、10/9(水)18:30、10/12(土)14:00 新国立劇場 オペラパレス問 新国立劇場ボックスオフィス03-5352-9999 https://www.nntt.jac.go.jp/opera/ 大野和士芸術監督の第2シーズンは、チャイコフスキーの《エウゲニ・オネーギン》新制作で開幕する。レパートリーの拡充を進める大野監督の主導で、新国立劇場の演目としては、実に19年ぶりの上演。深い心理描写とドラマ性が際立つこのオペラは、ロシアの文豪プーシキンの韻文小説とチャイコフスキーの美しく叙情的な音楽が結びついた傑作である。 演出は、モスクワ・ヘリコン・オペラの芸術監督ドミトリー・ベルトマン。ロシアの俳優で演出家のスタニスラフスキーの、1922年の演出をモティーフに現代的な視点を加えた、ロシア演劇の伝統を受け継ぐプロダクションだ。 苦悩する若き貴族オネーギンを演じるのは、ボリショイ劇場をはじめ、メトロポリタン歌劇場やミラノ・スカラ座等で活躍中の“オネーギン歌い”ワシリー・ラデューク。オネーギンに一途な想いを寄せる(第1幕〈手紙の歌〉)も失恋。その後、美しい女性へと成長するタチヤーナ役は、ザルツブルク音楽祭で大成功を収めたエフゲニア・ムラーヴェワ。オネーギンと決闘するレンスキー役は若手パーヴェル・コルガーティン。いまが旬のロシア人歌手たちが集結し、鳥木弥生、森山京子、竹本節子ら日本の実力派歌手たちが加わる豪華な布陣だ。 そして、ポーランド国立歌劇場音楽監督のアンドリー・ユルケヴィチの情熱的な指揮が舞台全体を引き締める。新シーズンも新国は開幕から見逃せない。今秋イチオシの公演だ!エフゲニア・ムラーヴェワジョナサン・ノット(指揮) 東京交響楽団世紀末ウィーンの濃厚な香りがホールを満たす文:飯尾洋一第675回 定期演奏会 11/16(土)18:00 サントリーホール第72回 川崎定期演奏会 11/17(日)14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール問 TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511 http://tokyosymphony.jp/ ジョナサン・ノットと東京交響楽団の快進撃はとどまるところを知らない。刺激的なプログラム、説得力のある作品解釈、そして予定調和に終わらないエキサイティングなライヴ。こういった魅力が、6シーズン目を迎えてもなお色褪せないというのは驚異的なこと。毎回の共演にこれだけワクワクできるコンビはそうそうない。 11月の定期演奏会でノットが用意したのは、ベルクの「管弦楽のための3つの小品」と、マーラーの交響曲第7番「夜の歌」を組み合わせたプログラム。前者は1915年、後者は1905年の作曲。いまだ色濃く残る爛熟した世紀末ウィーンの香りを伝える。ベルク作品では後期ロマン派の濃密な官能性とともに、マーラーからの影響も感じとれることだろう。行進曲の採用やハンマーの使用は、マーラーの交響曲第6番「悲劇的」を連想させるが、今回演奏されるのは第7番「夜の歌」だ。 ノットと東響はこれまでにもたびたびマーラーの作品をとりあげてきた。今回の「夜の歌」はとりわけ大きなチャレンジとなるはず。なにしろこの曲はどんな指揮者、どんなオーケストラにとっても一筋縄ではいかない作品なのだから。オーケストラに高度な機能性を求める一方で、音楽が伝えるドラマは多義的で、クライマックスに至ってもその真意をはかりかねるところがある。歓喜なのかパロディなのか、狂躁的な音の洪水のなかで考えさせられてしまう。そんな多面的な作品をノットがどう料理するのか。発見の多い名演になりそうだ。ジョナサン・ノット ©K.Nakamuraワシリー・ラデュークパーヴェル・コルガーティンアンドリー・ユルケヴィチドミトリー・ベルトマン

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