eぶらあぼ 2019.10月号
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41若き鋭才ティチアーティ、名門オーケストラを率いて堂々の来日!取材・文:山田真一 ベルリン・ドイツ交響楽団といえば戦後、西ベルリンにRIAS交響楽団として発足し、カラヤンのライバルと目されたフリッチャイに率いられて以来、マゼール、シャイー、ナガノ、ソヒエフ等名指揮者をシェフとして迎え、発展してきた。その優れた演奏はレコードやCD、映像などで広く知られるところだが、1983年ロンドン生まれの若き鋭才ロビン・ティチアーティが2017年から首席指揮者に就任し、以前にも増して活気ある演奏を展開している。そこで10月の来日ツアーを前にその抱負について尋ねてみた。 「過去の訪問から、日本が素晴らしい伝統と文化の国で、活気ある街が多いことは知っています。特に日本人のコミュニケーションに対する感性は特別なものだと思います。そうしたことに敬意を払いつつ、美しい数々の音楽作品を我々は情熱をもって届けたい。何十年にもわたるベルリン・ドイツ響と日本との関係にまた新たなページを加えられると思うと今から興奮します」と熱い意気込みを語る。 今回のツアーではメインにマーラーとラフマノニフの交響曲を据えた。 「マーラーの交響曲第1番はシンフォニック・レパートリーで最も好きな曲の一つ。モダンで、人生の試練、変転、行き詰まりといったもろもろが表現されており、この曲が1890年前後に作曲されたのは希有なこと。また彼のボヘミア時代の経験、クレズマー的音楽要素も含まれた音のコラージュです。対照的にラフマニノフの第2番は、切なく、郷愁を誘う音楽。昨年ベルリンで演奏しましたが、とても聴衆の反応が良かった。そこで、ぜひ日本でも演奏したいと思いました」 その他、モーツァルトの協奏曲を除けば、R.シュトラウス、ラフマニノフ、ショスタコーヴィチと世紀末から二十世紀の作品が並ぶ。 「協奏曲やオーケストラつき歌曲などを含めて、よりバラエティのあるツアー・レパートリー」を考えたということのようだ。今回は、昨シーズンまでツアーで集中的に取り上げたブラームスを通して交響曲の構成に精通したティチアーティの“近代レパートリーにも強い”側面を存分に味わうことができる。 ところで彼は20代前半でミラノ・スカラ座にデビューし、現在はグラインドボーン音楽祭の音楽監督というタイトルも持つ優れたオペラ指揮者だ。そんな彼がシンフォニック・オーケストラのシェフも務める理由は、「オペラはステージに関するもろもろのことが係わってくるが、シンフォニック・オーケストラでは音楽だけに集中できる。筋立てから解放され、純粋に音楽だけを表現できる。この貴重な時間を愛おしく感じる」からだという。一方、「オペラで、音楽を通して人間のドラマを表現するという仕事をしていることは、シンフォニーの指揮でも大いに役に立っている」とのこと。そんな彼の人間味のある音楽表現もコンサートで聴けることだろう。 協奏曲などで共演するのは初顔合わせのアーティストばかりだが、ヨーロッパでの活動もしている奏者もいるので、その活動ぶりは知っており、「期待も大きく、楽しみ」にしていると語る。 ティチアーティがベルリン・ドイツ響を初めて指揮したのは、14年のブルックナーの交響曲第4番というから短期間でシェフに決まったことになる。「それだけ最初から我々の相性は抜群でした。私はこのオーケストラの演奏姿勢、力、そのすべてを最初から理解できたのです」というだけに、オケとの息はツアーでもぴったりのはずだ。 15歳の時から一般向けのコンサートを指揮し、コリン・デイヴィスに導かれてプロ指揮者となり、プロになってからもサイモン・ラトルに音楽の深層について薫陶を受けるなど、年齢よりも遥かに豊かな音楽経験を持つティチアーティ率いるベルリン・ドイツ響の公演が今から楽しみだ。Prole1983年ロンドン生まれ。若くしてその才能を開花させ、スコットランド室内管の首席指揮者、バンベルク響の客演指揮者を歴任し、2014年からグラインドボーン音楽祭の音楽監督、17/18年のシーズンから、ベルリン・ドイツ交響楽団音楽監督を務めるほか、これまでに、ウィーン響、バイエルン放送響、ヨーロッパ室内管、スウェーデン放送響、ブダペスト祝祭管、ロンドン響、フランス国立管といった錚々たる名高い楽団を指揮している。CD録音も積極的に行っており、その多くは批評家達から絶賛され、数々の賞を受賞している。

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