eぶらあぼ 2019.10月号
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194CDCDCDハイドン:天地創造/佐渡裕&トーンキュンストラー管トッカータ・ブラジリス/熊谷俊之アルカン ピアノ・コレクション5「幻影」―エスキス 作品63―/森下唯バッハ:トッカータ集/西山まりえハイドン:天地創造佐渡裕(指揮) クリスティーナ・ランツハマー(ソプラノ) マクシミリアン・シュミット(テノール) ヨッヘン・シュメッケンベッヒャー(バリトン) RIAS室内合唱団 トーンキュンストラー管弦楽団ピアソラ:コンパードレ(伊達男)、天使の死/ヴィラ=ロボス:「ブラジル民謡組曲」より〈マズルカ・ショーロ〉〈ショティッシュ・ショーロ〉〈ワルツ・ショーロ〉〈ガヴォット・ショーロ〉/ノブレ:ソナタop.115/ポンセ:エストレリータ、主題と変奏と終曲/コントレラス:感覚と理由~ビクトル・ハラ讃歌~/アサド:思い出熊谷俊之(ギター)アルカン:エスキス―48のモチーフ op.63森下唯(ピアノ)J.S.バッハ:トッカータ ニ短調 BWV913、同ニ長調 BWV912、同嬰へ短調 BWV910、同ホ短調 BWV914、同ト短調 BWV915、同ハ短調 BWV911、同ト長調 BWV916西山まりえ(チェンバロ)収録:2018年9月&10月、ウィーン(ライヴ)エイベックス・クラシックスAVCL25994~5(2枚組) ¥3000+税マイスター・ミュージックMM-4063 ¥3000+税コジマ録音ALCD-7239 ¥2800+税OMFKCD-2073 ¥2500+税まぎれもなく“ウィーンのハイドン”だ。歴史的奏法や楽器による温かくも鋭角的な音と、それをまとめて雄大でヒューマンな好演を作り上げているのは、佐渡裕の熱い指揮であることは間違いない。一方で、ウィーンの楽団が“黄金の”楽友協会ホールでウィーン古典派を演奏するときならではの、ローカルだが輝かしい、確信に満ちた響きがするのもまた確か。日本人である佐渡がこの演奏を作り上げたことは、いかに音楽監督として楽団と良好な関係を築き、現地に溶け込んでいるかを物語っている。ドイツの歌手と合唱も、言葉と意味が完全に体に入った自然体の歌唱を聴かせている。(林 昌英)南米の作品を中心に編んだ。アダルトなピアソラに始まり、陽気で開放的なヴィラ=ロボス、洒脱なポンセ、ノスタルジックなコントレラス&アサド作品。通底するものを持ちながらも、それぞれに趣向が異なった選曲で、心地よく聴き通せる。ジャズやロック、エスノ的なセンスまで熊谷の幅広い才能が窺われるが、中でも世界初録音となるマルロス・ノブレの「ソナタ」は耳を引いた。クロマティックな動きに力強いアクセントが加わる冒頭楽章、寂寥感を湛えた抒情的な中間楽章、アルバム・タイトルに取られたアクロバティックなフィナーレ。技巧も構成力も問われる大作を見事にまとめている。(江藤光紀)ショパンと同時代に生き、知られざる超絶技巧の名曲を数多く残したアルカンの楽曲を世の中に紹介し続ける、森下唯。その第5弾となるアルバムに収められたのは、アルカン円熟期の名作「エスキス―48のモチーフ」。24の調性を2周する形で書かれたすべての小品には表題が与えられている。それらを、まるで幅広いスタイルで書かれた詩を朗読するように、音の名残を大切に響かせ、多彩に表情を変えながら演奏してゆく。難曲として知られるアルカンの他作品とは一線を画したこの小品集のピアニスティックな魅力を、自在なタッチを駆使して堪能させてくれる。(高坂はる香)チェンバロとヒストリカル・ハープの名手で、古楽集団「アントネッロ」のコアメンバーでもある西山まりえ。継続的に取り組む「バッハエディション」第5弾で、チェンバロのための「トッカータ」に対峙した。自筆譜が現存しない作品も含むが、若き大バッハが作曲したと推定される全7曲。後年の作品の熟達には及ばぬものの、逆にそこにはない、瑞々しさと自在さに溢れる。西山は、そんな魅力を充分に理解し、何よりも“即興性”を重視。豊潤な響きをもつタスカン・モデルの銘器を存分に鳴らし、寄せては返す波を思わせる、自然な音楽の伸縮と流れを形創ってゆく。(笹田和人)CD

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