eぶらあぼ 2019.9月号
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54東京芸術劇場が贈る読売日本交響楽団とNHK交響楽団のコンサートオケ・ファン必聴、ホール主催の注目2公演が12月に実現文:小室敬幸読売日本交響楽団 12/6(金)19:00 NHK交響楽団 12/14(土)14:00東京芸術劇場コンサートホール問 東京芸術劇場ボックスオフィス0570-010-296 https://www.geigeki.jp/ 来年で30周年を迎える東京芸術劇場は2012年のリニューアルオープン以来、コンサートホールの音響がより良くなったと評判で、大編成の管弦楽を豊かな残響と混濁することのないクリアさを両立したホールとして聴衆に愛されている。そんな芸劇が主催する、“冬に熱くなれる”コンサート2つをご紹介しよう。 まずは井上道義指揮の読売日本交響楽団によるマーラーの交響曲第3番。12月の誕生日で73歳となる井上の深化は留まることを知らず、今年7月に読響と共演したブルックナーの交響曲第8番では「僕の人生の中で白眉の結果だった」と自身で絶賛するほどの境地に達したことで話題に。彫りの深い音楽づくりを徹底しつつも、ケレン味を感じさせない現在の井上と、彼が「今、黄金時代! 素晴らしい!」と賛辞を惜しまない読響との共演はいま最も聴き逃すべきではないコンビだ。アルト独唱はワーグナーの名唱でも知られる池田香織、合唱は首都圏音楽大学合同コーラスほかが参加する。 もうひとつはパブロ・エラス・カサド指揮NHK交響楽団の演奏会。スペイン出身のエラス・カサドは今年42歳という若さながら、既にベルリン・フィル、シカゴ響といった欧米の一流オケからご指名のかかる未来の巨匠候補、筆頭格。ピリオドアプローチにも精通する彼が、得意とするチャイコフスキー初期の隠れた傑作・交響曲第1番「冬の日の幻想」の真価を引き出す。また弱冠16歳で第15回チャイコフスキー国際コンクールピアノ部門の第3位に入賞したダニエル・ハリトーノフのソロで、彼の十八番であるリストのピアノ協奏曲を聴けるのも楽しみだ。寒くて出不精になりがちな冬でも駅直結の芸劇なら心配不要である。池田香織 ©井村重人第9回 立川オペラ愛好会 ガラコンサート「名歌手たちの夢の饗宴」日本人歌手の最高峰を“いま聴きたい”役で!文:香原斗志9/8(日)14:00 たましんRISURUホール問 立川オペラ愛好会事務局090-8842-5852 (渡辺) 「夢の饗宴」── 時に大げさに響くキャッチも、このキャストと曲目ならしっくりくる。例年、日本を代表する歌手たちが歌い、西東京のオペラの風物詩として定着した立川オペラ愛好会主催のガラコンサートだが、今年はとりわけ豪華である。 第1部はヴェルディ《イル・トロヴァトーレ》ハイライト。劇性とエレガンス混在するこのオペラに、これ以上ないキャストだ。リリックな美声で中低音域も充実してきた森谷真理は、レオノーラに必須のアジリタも得意。日本で彼女以上のレオノーラは想像がつかない。純イタリア声の笛田博昭のマンリーコも同様で、圧倒的な響きと高音はそのままに歌唱が洗練され、本場でも笛田以上のマンリーコはなかなか聴けない。森口賢二もイタリアの響きで、フレージングにルーナ伯爵にふさわしい貴族的な品位がある。アズチェーナの谷口睦美は、ジプシー女の錯綜した感情を劇的に表現でき、スタイリッシュでもある。 第2部のグノー《ファウスト》ハイライトもすごい。声が一段と充実し、役柄を掘り下げた繊細な表現も可能な村上敏明のファウスト、やわらかく暖色感のある美声の安藤赴美子のマルグリート。そして日本一のバスといっても過言ではない、悪の美学を表現しうる妻屋秀和のメフィストフェレスに、端正で柔軟な牧野正人のヴァランタン。 この日、これだけのキャストが立川に集結するのは、実際、「夢」のようだ。そのうえピアノが、オペラも歌手の呼吸も知り尽くした河原忠之。まさに夢見心地の時間になるだろう。左より:森谷真理 ©武藤 章/安藤赴美子 ©Shingo Azumaya/谷口睦美/村上敏明/笛田博昭/妻屋秀和パブロ・エラス・カサドダニエル・ハリトーノフ井上道義

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