eぶらあぼ 2019.9月号
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160CDCDCDあなたはすべて私のものだった/櫻田亮&西山まりえフランク:ヴァイオリン・ソナタ/鍵冨弦太郎&沼沢淑よしと音ショパン:バラード&即興曲集/ガーボル・ファルカシュ浄められた夜/マティアス・ストリングスカッチーニ:この上なく甘い溜息、私の美しいアマリッリよ、痛みと苦しみの狭間で、帰ってきておくれ 私の愛しい人よ/ディンディア:無慈悲なアマリッリ、獣も岩も私の嘆きに涙を流し/モンテヴェルディ:これほどに甘い苦しみが、優しい光で武装した太陽が、あの蔑むような眼差し、あなたはすべて私のものだった 他櫻田亮(テノール)西山まりえ(バロック・ハープ)ショーソン:詩曲プーランク:ヴァイオリン・ソナタ鈴木輝昭:スピリチュエルⅢフランク:ヴァイオリン・ソナタ鍵冨弦太郎(ヴァイオリン) 沼沢淑音(ピアノ)ショパン:バラード第1番~第4番、即興曲変イ長調、同嬰ヘ短調、同変ト長調、幻想即興曲ガーボル・ファルカシュ(ピアノ)シェーンベルク:浄められた夜ブラームス:弦楽六重奏曲第1番マティアス・ストリングス【齋藤真知亜 降旗貴雄(以上ヴァイオリン) 坂口弦太郎 松井直之(以上ヴィオラ) 宮坂拡志 村井将(以上チェロ)】コジマ録音ALCD-1188 ¥2800+税日本アコースティックレコーズNARD-5068 ¥2500+税HUNGAROTON/キングインターナショナルHCD32829 輸入盤/¥オープンマイスター・ミュージックMM-4061 ¥3000+税バッハ・コレギウム・ジャパンの演奏会をはじめ、バッハの受難曲などで、知的な名エヴァンゲリストぶりを披露している櫻田亮。ボローニャで学び、国際的な活躍を展開する。初のソロ・アルバムで対峙したのは、17世紀イタリアで流行した、簡素な伴奏を伴うモノディ様式の単声世俗歌曲。櫻田の美声は、リズムや旋律と密接に結びついた言葉ごと、その色彩をくるくると変えてゆく。弦を3列に張ったバロック・ハープの響きは煌びやかなモダンと違い、ギターのように芳醇で内省的。西山まりえは、尽きぬ憧れや届かぬ思いなど、櫻田の繊細な感情表現へぴたりと寄り添い、時に前に出て煽る場面も。(笹田和人)近年はレスパス弦楽四重奏団の第1ヴァイオリンを務めるなど室内楽にも意欲的な鍵冨弦太郎が、才気溢れる沼沢淑音のピアノを得て実現させた好プログラム。中心に据えられているのは、スペイン内戦での詩人ロルカ訃報の衝撃を受けて書かれたプーランクの異色作、ヴァイオリン・ソナタと、上田秋成の『雨月物語』を隠れテキストとする鈴木輝昭の「スピリチュエルⅢ」(2018年に鍵冨と沼沢により初演)。どちらも人の世の不条理である“死”をみつめた不穏な空気を漂わせているが、それをショーソン「詩曲」とフランクの表題曲が巧みなグラデーションで包んでいる。(東端哲也)リスト音楽院でコチシュやヴァーシャリのもと学び、ワイマールのリスト国際コンクールに優勝したファルカシュ。母校の教授を務めたのち、2017年からは東京音楽大学の教授に就任した。今回は、彼が得意とするリストが親しい交友関係を結んだショパンの作品から、バラード4曲と即興曲を録音。一つひとつのフレーズが、役者のセリフまわしの“語り”のように自在に伸縮し、作品の持つ豊かな詩情を音で表現する。バラード第4番の力強い音を生かしたドラマティックな展開、即興曲の自由で大胆な表現から、ショパンの心情に寄り添おうとしたピアニストの想いが伝わってくる。(高坂はる香)齋藤真知亜率いるマティアス・ストリングスの新盤は、バランスの取れたフレッシュな演奏を通じ、室内楽の歴史の綾をたどる。「浄められた夜」では、6人の織りなす弦が深い森を歩む男女の姿を立体的に描き出す。続いてブラームス「弦楽六重奏曲第1番」では、低音域を増強した分厚く入り組んだ書法が濃厚なロマンを捕まえていく。聴き進めるうちに、ブラームスを終生敬愛していたシェーンベルクが、写実的なドラマの背後に先達の編成の濃密さを継承していることに気づかされる。ここで導かれた過去を遡る眼差しは、ブラームスの向こうにさらにベートーヴェンの弦楽四重奏をも見出すことだろう。(江藤光紀)CD

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