eぶらあぼ 2019.8月号2
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64CD『浄められた夜』マティアス・ストリングス【齋藤真知亜 降旗貴雄(以上ヴァイオリン) 坂口弦太郎 松井直之(以上ヴィオラ) 宮坂拡志 村井将(以上チェロ)】マイスター・ミュージック MM-4061 ¥3000+税 7/25(木)発売 Photo:H.Ikezawa齋藤真知亜(ヴァイオリン)6人が本当に噛み合ったものを表現したかった取材・文:宮本 明Interview NHK交響楽団のべテラン・ヴァイオリン奏者・齋藤真知亜を中心とする「マティアス・ストリングス」の新譜は弦楽六重奏。シェーンベルクの「浄められた夜」とブラームス「弦楽六重奏曲第1番」のカップリングによる一枚だ。 「六重奏に作品が少ないというのは、やはり四重奏のほうがバランスがよいということでしょう。六重奏のコンサートを聴きに行っても、ヴァイオリンがよく聞こえた経験があまり無いのです(笑)。もともとバランスが取りにくい。だからこそ、単純にヴァイオリンがメロディ、他が伴奏という稚拙な作りではなく、6人が本当に噛み合ったものを表現したかった。僕も若い頃は、室内楽においてもヴァイオリンを鳴らしたい、聴かせたいという気持ちが強かったのですが、最近はそこにはあまり興味が無くなりました。自然の水の音や木々の葉の擦れ合う音は、大きな音でなくても、聞こうとすれば聞こえてくる。逆に言えば、気がつかなければ聞こえない。音というのはそうありたい。そう思うようになりました」 オーケストラが“自分の先生”だと語る。「室内楽を、勿論ソロもやればやるほど、オーケストラの経験のありがたさを感じます。幅広いレパートリーを弾いているからこそ見えてくる作曲家像や歴史が、体に染み込んでいるので、例えば今回のシェーンベルクの音楽に対しても、ごく自然にマーラーやワーグナー、R.シュトラウスなどを感じることができるのです」 メンバーも全員がN響の仲間たちだ。 「みんな思った以上にうるさかった(笑)。ああでもないこうでもないと、いいコミュニケーション、いい議論ができました。委ねることのできる仲間です。弦楽四重奏の時は、どうしても僕の意思が色濃く出てしまうのですが、今回は僕が黙っている時間がすごく多かった。それが楽しかったですね」 そうした個と全体のバランスの取り方は、室内楽の魅力的な個性となる。 「一言ではその魅力を語ることは難しいですよね。例えばウサイン・ボルトが6人いても、結果、六人七脚で走れないと形にならない。そこはやはりN響だからこそのクオリティとプライドで、バランスよく作ることができたと思います。音色を合わせるって一期一会ですからね。同じ箇所を繰り返し弾いても、絶対に同じ音は出ない。それが面白い。今回、初参加だったチェロの村井将さんが、録音なのにライヴ感があると言っていました。うれしい反応です。それが僕たちマティアス・ストリングスの面白いところかもしれない。ある意味、不安定要素なんですけれども(笑)」 スピーカーからの音楽を、ぜひとも一対一で聴いてほしいという。 「ジョギングしながらではなく(笑)。音楽ってやっぱり贅沢なものですから」8/4(日)15:00 南足柄市文化会館 8/10(土)15:00 秦野市文化会館(小)問 チケットかながわ0570-015-415 https://www.kanagawa-kenminhall.com/神奈川県民ホール巡回事業 出張公演 in 南足柄 & 秦野みんなでたのしむオペラ《ヘンゼルとグレーテル》夏休みにオペラ初体験文:室田尚子昨年の模様 ©Yusuke Masuda 昨年、神奈川県民ホールで上演された、みんなでたのしむオペラ《ヘンゼルとグレーテル》が、今年は出張公演となって南足柄市と秦野市で開催される。グリム童話を元にドイツの作曲家フンパーディンクが書いたオペラ《ヘンゼルとグレーテル》は、ヨーロッパではクリスマスの定番作品として知られ、また子どものファースト・オペラとしても親しまれている。今回はピアノ伴奏による休憩なしの1時間ほどに凝縮・再構成してお届けする。構成は、演出の田尾下哲とバリトン歌手の宮本益光が担当。宮本は日本語台本も手がけ、さらにパパ役で出演もする。ヘンゼルに青木エマ、グレーテルに鵜木絵里、ママとお菓子の魔女の二役にソプラニスタの岡本知高、と昨年と変わらない豪華なキャスト陣が、ワクワクするようなファンタジックな世界を描き出す。4歳から入場可能なので、ぜひ、子どもたちの初めてのオペラとして家族そろって出かけてみてはいかがだろうか。

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